第8話 ロボットとクローン

 森に誘ったのはそっちだ。なのにこちらのことなど気にも止めずに歩いている。必死に白髪を追う。


「歩くの速い!」


 服の袖を掴み文句を言うと、汗ばんだ掌でぎゅっと掴まれた。心拍が跳ね上がって、なんて浅ましいんだと軽い自己嫌悪に陥る。


「ねえ二二番、あんまりみんなと離れると怒られるよ!」


「大丈夫だよ、ほら早く早く!」


「でも……」


「大丈夫だよ、俺強いから」


 それはそうだと納得した。彼は特別だった。均質で均等な俺たちの救世主だった。


「……俺はそんなに強くないし」


「拗ねんなって」


「拗ねてないもん」


 グダグダと話していても、彼はズンズン歩いていく。俺の手をひいて。


「ほら見て」


 彼が地面を指差す。そこには小さな花が咲いていた。


「可愛い」


「だろ? ここ秘密の場所なんだ」


そう言ってまた歩き出す。


「どこ行くの?」


「内緒」


楽しそうな彼の横顔を見て、やっぱり特別だなあと思ってしまう。我々にとって特別。だから俺にとっての特別。……それだけ。


「あ、そうだ」


「なに?」


「二二番って呼ぶのやめてよ」


「なんで?」


「同い年だから。二二でいいよ」


「わかった」


 それから二人で話しながら歩いた。何を話したかはあまり覚えていないけど、きっとくだらないことだった気がする。


 そしてたどり着いた場所は、一見何もない開けた場所だった。ただ、何かがいるということだけはわかる。本能的に危険を感じ、俺は一歩後ずさった。


「大丈夫だよ。ほら」


 彼が茂みをかき分けると、ロボットが姿をあらわした。俺たちより大きな体に鉄の装甲。箱にタイヤが浮いたようなロボットだ。当然のことながら俺は悲鳴を撒き散らして、ロボットめがけ石を投げようとした。


「こら、待て待て」


「で、で、でもコイツはロボットじゃ……」


「そうだよ。でも見て」


二二はしゃがみこむと、ロボットの装甲に触れた。


「ほら襲ってこないでしょ」


「えっ……!?︎」


「ほら、触ってごらん」


 恐る恐る触れてみると、確かに襲ってこなかった。


「すごい……」


「ね」


「これ……どうやって作ったの……?」


「俺が作ったんじゃなくて、こいつはそういうやつなの」


「へぇ……なんで? 」


「んー、よくわかんないんだけど、俺たちを殺せってコマンドが正常に作動してないらしい」


「そんなことあるのかなぁ……だってロボットだよ」


「うん。でもロボットはもともと人間が作ったもので人間を殺すために作られたものじゃないだろ。コマンドさえどうにかなれば敵じゃないよ」


「でも老はロボットを制御している人工知能が人類を絶滅させようとしていて、それと戦うために我々が作り出されたって……」


二二は軽く鼻を鳴らした。


「老だって二十年と少ししか生きてないし、俺たち以外の人類にあったことないだろ。俺は世界はもっと複雑で面白いものだと思うよ。ご覧」


二二はロボットに乗ってみせた。


「すげーだろ! ワクワクする!」




✳︎✳︎✳︎



「ニコ! どうしたのぼっとして」


レーイチに声をかけられ我に返った。外の気温が日に日に上がっている。春がきたのだ。


 今日も今日とてガレキを片付けているうちに、防護服の中の暑さにクラクラしていたようだ。


 それにしても懐かしい記憶だ。あの時のロボット、どこにいったんだっけ。

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