夢を追う男

 配信を終えた俺は、膨れた腹をさすりながらスマホの電話帳を開いた。

 20件足らずの連絡先の中から、一番よく使う名前を選んで電話をかける。


『もしもし、瑛汰? なんなの急に、病気でもした?』


 母さんの声は相変わらずデカい。耳に当てていなくても充分聞こえそうだ。


「母さん? あのさ、今度の週末にそっち寄ってもいいかな」


『そりゃ構わないけど……どうしたの、一体どういう風の吹き回し?』


 真夏に降る雪を見たかのようなリアクションをする母さんに、俺は少しぶっきらぼうに返事をした。


「別に、ちょっと母さんの飯が食いたくなっただけ。言ってただろ、たくさん用意しとくって。ひさびさに食わせてよ」


『そういうことならいくらでも用意するわよ。なにがいい? ハンバーグとかどう?』


「ハンバーグはいいや。向こう3ヶ月はいらねえ」


 苦笑いで返す。その理由を母さんが知ることはないだろう。それでいい。



 しばらく話したあと、俺は肝心なことを忘れているのに気づいた。電話が切れる前に、慌てて母さんに伝える。


「あ、そうだ。まだ頼みたいことがあるんだけど……」


『なに?』


「その、あれだよ――母さんが作るメシのレシピ、俺でも作れるようにまとめておいてもらえないかな。できれば、それなりの数で」


 あら。短くそう言った母さんの声は明らかに弾んでいた。

 そそくさと電話を切った俺は、ハンバーグの匂いで溢れ返った部屋の天井を眺めて息を吐いた。腹一杯に詰まった夢の名残が、身体の中で熱く燃えている。


「……やっぱ、電話でもハズいな」


 母さんにもうひとつ、言いたいのに言えなかったことがある。改まって言うにはちょっと気恥ずかしさがある言葉だ。

 だが、週末までには勇気を固めないとな。

 メシを作ってくれる母さんに向けて「ごちそうさま」と一緒にその言葉を届けるために。

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【料理経験ゼロの男が1kgのハンバーグ作って丸ごと焼いて食ってみるwww】 中村汐里 @shiorinak

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