こういう作品が読みたかった

ストーリーに関して、没入感がすごいです。堅実なストーリーながらも、魔法小説オタクやファンタジーの世界観が好きな読者にとってうれしい要素がてんこもりです。アイデアが出し惜しみされていないため密度が高く、この小説1本のネタがあれば普通だったらもう何本か作品ができただろうな、くらいのボリューム感があります。

キャラクターに関して、「スタイリッシュだが人間臭い」魅力的な登場人物が多いです。強くて相手をぶっとばす脳筋っぷりをみせつつも涼しい顔をしている、みたいなキャラが多い印象です。新しい登場人物には容姿の説明が入ることもありますが、くどすぎず、想像の中でキャラクターを動かすのにちょうどいいバランスです。
悪人は悪人ですし善人は善人なのですが、キャラクターごとの善悪や性格にも根拠があり、「わかる、こういう人いる」といった臨場感を味わえます。

表現に関しても、作者様の技巧の高さが伺えます。色の表現はそれほど多くないのですが、画面と文字が非常に鮮やかに見えます。

自分は固有名詞の多い作品があまり得意ではないのですが、ファンタジーに不慣れな読者にもついていけるような配慮がなされている文章で安心感があり、メモを取りながら読む手間を必要としません。それでいて「作者に補助されながら読んでいる」という感覚は特にありません。いい意味で、作者の顔が見えない作品であるといえます。

書き手の目線からも消費者の目線からも楽しめる一作。ぜひご一読ください

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