一人の狩人の罪と罰、そして再生

吸血屍鬼と狩人が熾烈な戦いを繰り広げる世界。
物語は、かつて狩人だった一人の男のモノローグとして展開される。
導入部で語られるのは、彼がまだ人間だったころの追憶だ。狩人をこころざし、妻と娘が待つ幸せな家庭を築き上げるまでの日々。
しかし、あるとき彼の身に降り掛かった不慮の出来事によって、家族の幸せな日常は永遠に失われてしまう。
その後、仲間だった狩人によって捕らわれた彼は、ギリシャ神話のプロメテウスよろしく「死ねない身体ゆえの苦痛」を永年にわたって味わうことになる。
家族への贖罪のため、死すら許されない生き地獄に耐えていた彼のもとに、稀少な血をもつ少女が現れたことで、凍っていた時間はふたたび動きはじめる……。

ダークなゴシック・ホラー調の世界観で展開される吸血鬼VSハンターのバトルもの。……というとよくある話に思えるが、この作品で注目すべきは、主人公が吸血鬼に堕ちた元狩人であるという点だ。
狩人と吸血鬼の二つの世界に属する(属していた)特殊な立場とその視点は、単純な善悪という構図では括れない問題を浮き彫りにしていく。
詳しい内容についてはぜひ本編をご覧いただきたいが、物語のラストで彼と彼女が選んだ道は、文字どおり旧弊なこの世界のルールを「飛び越えて」いったようで大変清々しい。
願わくばどこかで彼らの”その後”が見たい。そう思わせてくれるすばらしい作品だった。