伝承と怪異が絡み合う。美しい海を舞台に描かれる幻想的な伝奇ホラー

物語は主人公・颯斗の不可思議な夢から始まる。
やがて祖父の法要のため、祖父が生まれ育った九州沖合の離島・比彌島に赴いた彼を待ち受けていたのは、当地において語り継がれてきた古の伝説と奇怪な事件だった……。

架空の離島を舞台に展開される長編伝奇ホラー。
フィクションとはいえ、島で用いられる方言や伝承にはリアリティがあり、細部のディティールへのこだわりが物語の完成度を高めている。民俗学に興味のある向きにとってはたまらないポイントだろう。
ストーリー面に目を向ければ、島に伝わる過去の因習をめぐる謎解きや、主人公と島民との駆け引きといったミステリ的な要素も充分に楽しむことが出来る。
ホラーではあるものの、おもわず目を背けたくなるような血なまぐさい描写は絶無と言ってよく、このジャンルが苦手という読者にもおすすめ出来る。抑えた筆致と確かな描写力は、全編に静謐な恐怖と呼ぶべき雰囲気をもたらしている。
物語の最終盤で明らかになる怪異の”正体”、そして主人公が選んだ結末は、ぜひともあなた自身の目で確かめてほしい。

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