『普陀落渡海(ふだらくとかい)』。もしご存じない方は、ちょっと調べてみて欲しい。この日本に於いて、あまりにも恐ろしく哀しい行いがあったことを知るだろう。
この物語は、そんな『普陀落渡海』をベースとしている。舞台は、伊豆諸島の外れに位置する日子島。
若き学者の卵、橘川と立花とは漁船をチャーターして日子島に上陸する。水源がないため暮らすことが不可能な無人島だ。故に殆んど人の手が入らず、未知の資源や生態系の宝庫である可能性が高い。殺伐とした島の景観は、むしろ彼らの射幸心をくすぐることになる。
橘川と立花は照り返す太陽のなか、石や昆虫を観察しては採集していく。そんな中、妙な『人影』があるのを彼らは目撃してしまう…
舞台背景がとても丁寧に語られるため、違和感なく物語に入り込むことができます。最後まで途切れることのない緊張感が、貴方を誘うことになるでしょう。
『ホラー』というより『怪奇譚』。いや、もしかしたら『神話』なのかもしれません。
オススメです!
絶海の孤島を訪れた主人公とその友人が遭遇する怪異を描いた伝奇ホラー。
痛ましい描写はあるものの、あくまで静謐な恐怖のなかで物語は叙述されていく。
外部との通信もままならない状況で、乏しい物資をやりくりして生還をめざすサバイバル作品としても十分に楽しめるだろう。
物語が進むにつれて過去と現在が交差し、島をめぐる隠された歴史を紐解いていく歴史ミステリー要素も見逃せない。
時間と空間、そして彼我の境界線すら溶け崩れていくようなクライマックスは圧巻の一言。その果てに辿り着く結末は、仏教や民俗学にさほど興味がないという方でもかならず引き込まれるはずだ。
卓越した描写力とたしかな知識で描かれる異界への補陀落渡海、ぜひご堪能あれ。
どこか懐かしさを覚える、始まりの時代。
そこここに描写される、会話や小物の時代感が楽しい。
二人の若き研究者の卵の様子は微笑ましいが、彼らが表題にある、孤島の影と出会ってから、物語世界の色が一変する。
ひたひたと迫る恐怖。
明らかになるほどに、背筋を震わせる事実。
まるで闇のなかに転がり落ちていくかのような、物語の展開は、思いもよらぬスペクタクルへと変わる。
読みやすくも、実の篭った筆致。
あたかも実在したのではないかと思わせるような、『彼ら 』のことば。
ひとたび紐解けば、電子の頁を繰る手が止まらなくなる、伝奇ホラーの快作だ。
いやあ、面白かった!
完結おめでとうございます。
圧倒的なラストシーン、そしてエピローグまでキッチリ読ませていただきました。
本格的なあらすじと「補陀落渡海」の五文字がタグに入っているのを見て、絶対読もう! とフォローし、ページを開いてからは怒涛の勢いで一気読みしてしまいました。
内容については他の方のレビュー通りなので省略しますが、とにかくディテールの作りこみが凄い。巷のウェブ小説はえてして何もかもを簡略化しがちなのですが、この小説ではいっさい手を抜いているところがありません。
まず登場人物の背景がしっかりしています。何気ない行動や、語られる時代背景に「主人公たちが学術調査に来た大学院生である」ということが納得できるリアリティがあります。日子島の怪しげな生態系やそこに潜むモノたちのバックボーンについて語られる内容も、作者さんがしっかり情報収集して(あるいは持ち前の知識を活用して)書き込まれているのがわかるのです。
おかげさまで、世界観に招かれた一読者として安心して物語の進行を登場人物の手にゆだね、彼らの知識や行動に純粋に驚いたりハラハラしたりできました。
脱出不可能な孤島、ホラー作品として魅力的なテーマ、超常のものへの畏怖、人間のどろどろした感情――。ホラー小説のいいところがガッツリ盛り込まれた物語、心ゆくまで堪能しました。
非常に面白かったです。
どうもありがとうございました。
1994年6月、大学院生の橘川と立花は、伊豆諸島の小島を訪れた。地質学と植物学のフィールドワークの予定だった。アホウドリが飛び、シマホタルブクロの変異株が咲く島で、二人は地元の漁師の「長居をしない方がいい」という忠告にもかかわらず、夢中で調査を行った。
日が暮れると、暑さが、無数の虫が、彼らを襲った。謎の人影、鳥居、洞窟、補陀落渡海の伝説……。ひたひたと忍び寄る恐怖が、主人公たちを追い詰めて行く。
前作を拝読しました。改稿版のこちらは、構成も新たに、研ぎ澄まされた文章がいっそう深く、恐ろしく、読み手の心に刺さる作品になっています。夏の終わりのホラー、ご堪能ください。