吸血鬼はまだ死ねない
悠井すみれ
こんなはずでは
行き当たりばったりで、思いがけないことばかりの人生だった。
始めてみると、俺は意外と化物狩りに向いていた。対
人のために始めた訳じゃなくても、人を助けて感謝されるのは、くすぐったくて嬉しかった。競い合う仲間も、慕ってくれる後輩もできて──あの頃は、楽しかった。
彼女に求婚したのも勢いだった。だって、狩りでヘマをして、死ぬかと思ったから。心残りがないようにって。まさか、あんなに大泣きされるとは思わなかった。しかも後で怒られた。血塗れのプロポーズなんて雰囲気がない、って。でも、俺だって格好つけて死ぬつもりが締まらなくなったんだからお互い様じゃないか?
そうだ、娘ができた時もちょっと揉めた。優秀な
だけど娘は可愛かった。子供なんてうるさいだけだと思ってたのに、我が子だと全然違うった。何をしてもだらしなく顔が崩れたし、何をされても叱るなんてできなかった。それでまた彼女には叱られたけど。だって、彼女と同じ金の髪と青い目の天使なんだぞ。仕方ないじゃないか。
勢いで生きて来た俺も、地に足をつけようとし始めていた。家族のためにも危険な仕事は止めて、後進を訓練する側に回ろうか、とか。でも、俺は人生を舐めてたし調子に乗ってた。真面目に堅実に、なんて遅かったんだ。
俺は、
俺を、
そいつの言った通りになるのは当然だし、そうなるべきだった。元
ただ、最後に家族の顔が見たかった。人として当然の想いのはずだった。俺がまさかそんなことをするはずがない。彼女だって
分かるもんか。
俺を見て、銃を構えた彼女が手を震わせるなんて。歴戦の
血塗れの彼女を抱いて泣く俺に、娘は駆け寄って来た。それも、思ってもみなかった。優しい子だったんだよ。心配してくれたんだよな。
でも、何より信じられなかったのは妻と娘の血の甘さ、それがもたらす甘美な酩酊だった。生きた血の熱さに、俺の冷えた肉体が湧き立った。
生きているもののいなくなった家の中で、カーテンを開け放って朝日に焼かれるのを待ちながら。物言わぬ妻と娘を抱えて。俺はずっと頭の中で繰り返してた。
こんなはずじゃ、なかったんだ。
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