先へ先へ。先へ先へ先へ……!

女子高生のラキは、クラスの中で自分への反応が変わっていることに気づく。好きな男子にはいきなりアレコレされちゃうし、自分の情報がダダ漏れになっているし……。原因はなんだろう? 思い当たったのは、一台のスマホであった。たしかあのスマホ、勉強に集中するためにお母さんに預けていたはず。もしかしてお母さんが……?

笑っちゃいましたね。ネット掲示板の流れを小説で表されているのですが、この流れがめちゃくちゃ速い。勢いがあるのです。ひとネタ放りこんでおしまい、じゃない。ラキのお母さんの書きこみと、それに対するクラスメイトたちの書きこみのテンションが尋常ではないのです。作者はお酒でもあおりながら書いたのではないかと思いました。読者の私としても遊園地の水系アトラクションの勢いでページをめくっていきましたね。この「勢い」、本作の大きな魅力です。
というかですね、この勢いは星都作品の大きな特徴です。読者に、次を読まそうとする。読者は次を読みたくなる。先へ先へ先へ……! 筆者は生粋のエンターテイナーだと感じます。

しかし作者はこういう超絶笑える話も書けるのか……! と驚きでしたね。いえ、星都作品といえばちょっとヤバめの話とか、悲壮感を醸し出す話とか、鋭いツッコミの話などをイメージします。この話は、これまで私がもってきた「星都ハナス」像から切り離されたものだったのです。新境地なのでしょうか。
いえもちろん、ハナス要素はあります。ラキの友達の現状はヤバいことになっていますし、お母さんの書きこみに対するラキのツッコミは星都作品独特のものです。それでも、こういった要素を、お母さんがぜーんぶ包みこんでくれるのです。突き抜ける楽観性。障害物をぶっとばして走る流線型の列車のようです。読書がめちゃくちゃ気持ちいい。

んで、上記の延長になってしまうのですが、このお母さんの「明るさ」ですね、これが読者に勇気をくれるような気がするのです。少しずれていたっていいじゃない。人間の本質はこころだよ、こころ。誰かを思う気持ちは伝わるのさ。そんな明るさがこころにポッと点りました。だから私、この作品がとってもとっても大好きなんです!

追伸:お母さんが、ラキの友達に伝えることば。なんかグッときちゃいますよ。その言葉が発せられたときの友達の気持ち、近くにいた、ラキを含むみんなの気持ち。まるごと想像しながらそのシーンを楽しんじゃってください。

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