ネットスラングを知らないママのせいで本命君に◯られて◯◯されちゃった件〜バー◯ンだったのに!

星都ハナス

第1話 ごめん、今日は……。

「ご、ごめん。今日は……」


 私にだって心の準備っていうものがある。いきなり呼び出された体育館の裏。

ソラ君はそれでいいかもしれないけど、今日はどうしても無理なんだ。


「ラキがその気になっているって思ったのに」

「どういう事? 私まだ何も言ってないよ。ごめん」


 脱いだ学生服をソラはめんどくさそうに拾ってから二度軽く叩いた。


「ここが嫌なら今から俺の家に来いよ。約束したじゃん」

「……いつ? ごめん。今日はブラとパン……あのね」


───ソラ君に両肩を押さえつけられて、壁に貼り付けられている私。どんなに足掻いても離してくれなさそうだ。もうはっきりと言うしかないのかも。


「ごめん、どうしても。あのね、私ね、バ…………ンなの」


 その言葉を聞いたソラ君の手が一瞬緩んだ。私はこんなチャンスないって思いながらも、パンツとブラの事が気になってソラ君から離れて……走った。


 胸がドキドキしている。ずっと好きだったソラ君にあんな事されて夢みたいだ。今までずっと後ろ姿を追ってきた。クラスで一番モテるソラ君に振り向いてもらう事。それが高校二年生になってからの目標だった。なのに……。


「ラキ、どうしたの? 顔色悪いよ」

 カバンを取りに教室に戻ると、美月みつきに声をかけられた。小学生の頃からの親友で何でも話せる美月だけど、今は何も言いたくない。


「ねえ、もしかしてソラ君と何かあった? ラキ。最近おかしいよ。実はね」


 おかしいのは美月たちの方じゃん。ここ二、三日私によそよそしかったよね。やっとテスト期間が終わったのに。終わったら一緒にカラオケ行こうって約束してたのに。


「美月、実は何? 教えてよ! どうして私とソラ君との間に何かあると思ったわけ? なんか知ってるの? ねえ、教えてよ」


 声を荒げてしまった私の背中を花音かのんちゃんがさすってくれる。花音ちゃんは学年一の美人で、帰国子女のお嬢様だ。そんな優しい花音ちゃんまでが美月と同じように距離をとってきた事、不思議に思っていた。


「ラキちゃん、最初にこれだけは言っておくね。私と美月ちゃんは味方だから。クラスの子たちが無視しても、私たちはラキちゃんの事、好きだから」


───クラスの子たちが無視しても。どう言う事? たしかに最近みんなから無視されていたような気がするけど、それはテスト中で緊張していたからだと思っていた。


 九十九%の進学率。学年末のテストは大事だ。それでみんな戦々恐々としていたんじゃないの。


「ラキこれ見て。全部ラキの悪口だよ。私も最近知ったんだ。一週間前は匿名だったのに、昨日の投稿は、ほら、ラキとソラの名前が晒されてるよ」


 美月が画面をスクロールして見せてくれる。


『ラキって調子に乗ってるよね。ソラとヤレると思ってるんじゃない』


「何これ?! 私の名前が書かれてる。ソラ君の名前も。ヤレるって何よ」


 顔がカァーって熱くなった。悪口じゃないじゃん。もう名誉毀損。中傷だよね、これ。クラスの誰がこんなひどい事を書いてるの? もう誰も信じられないよ。


「ラキ、落ち着いて聞いて。ラキの投稿らしきものもあるの。これなんだけど」


『ソラ君とヤレる。嬉しいな。ソラ君、こちらこそ宜しくお願いします!』


 めまいがする。お願いしちゃってるよ。私じゃないよ、こんな事書くわけがない。誰かの嫌がらせよね。きっとそうに違いない。


「ラキちゃん、言いにくいんだけど、他サイトでも同じ事呟いてるよ。ラキちゃんのアカウントから。嬉しいのは分かるけど、ちょっと驚いたの……」


 今度は花音ちゃんがそのサイトを見せてくれた。本当だ。鍵垢になってるはずなのに、多くの人に見られてる。しかもが増えてる……。


「ラキ、本当に心当たりないの? 自分ので確認してみなよ」


 美月に言われるまでもなく、心当たりなんかない。自分のは……。


「やばい。犯人が分かった! ごめん、今日は先に帰るね」



───テスト期間中はSNS断ちってママと約束してるから。今日、返してもらう予定だった。まさかママが!? そんな事出来ないはず。けどママしか考えられない。

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