第2話 ママ、ちゃんと説明してよ!

「ママ、聞きたい事があるんだけど!」

「あら、ラキ早かったわね。テストどうだった? お疲れ様。じゃ、ランチもかねてデパートに行きましょうね」


 リビングでゆったりとソファーに座って紅茶を飲んでるママが言った。四十才にしてはきれいだけど、今はそこじゃない。花柄のエプロンを外すママ。


「ママ、返して! 私のケイタイ早く返して」

「ラキ、何をそんなに焦ってるの。……はいこれね」


 ピンクのマニキュアの手からケイタイを奪い取ると、私は慌てて電源を入れる。早く確認してあの投稿を削除しなきゃ、もう、遅いかも。


「ラキ、ママね、今日はパスタにしょうかしら。ラキは?」


 今はママの食べたいランチなんかどうでもいい。早く確認。……あった。やっぱり花音ちゃんが見せてくれたまま残っている。削除して落ち着く。


「……ママ、聞きたい事があるんだけど。私のケイタイ没収している間、勝手に触ったでしょ? なんなら投稿した?」

「うん。したわよ。ラキ、あなたやっていいって言ったわよね。ママ、楽しかったわ。あっ、そういえば、ソラ君とヤレたかしら。ママお願いしておいたの」


 ママは天然だ。知らない事が多すぎる。パパはそんなママが好きで結婚したって言ってた、今はそこじゃない。私はママの腕を掴んでもう一度ソファーに座って貰った。


「ママ、お願い。正直に言ってね。何のサイトにどんな事を投稿したのか教えてね。怒らないから一つずつ思い出して言って」


 ママにケイタイを渡したのが、ちょうど一週間前だ。だから三月三日の木曜日だったはず。その日にママに渡したケイタイ。


「……あの時、美月ちゃんから連絡あったじゃない。『カラオケいつにする?』って。そしたらラキが、12日って打ってねって。ママ、頑張ったわ。ほら茶色のクマさんが出てくるの。美月ちゃんのお返事は『了解』だけだったわ。あっ、花音ちゃんからも可愛らしいイラストが来たわ」


 ママはスタンプって知らない。けど、そこは全く問題ない。美月と花音ちゃんは、うちの事情を知っているから、それを最後に連絡してこないはず。やっていいって言ったのは二人に返事をする事だけだった。


「そのあとね、ユメカちゃんからもあったの。ママ、頑張ってユメカちゃんがこっちよっていうサイトに行ったの。押すだけで行けたわ」


 ユメカ。中学生の同級生でグループに入っていたけど、今は学校に来ていない。嫌な予感がする。


「ママ、どこ? それどこ?」

「……ママ、びっくりしちゃったわ。すごくエッチな漫画があってね、画面の色んな所で動いてるの。ユメカちゃんにダメよって言いたくて……」


 エッチな漫画。動いてる。ママが開いてしまったサイトって何。私は三月三日のユメカからのメッセージを確認した。


───最悪。最低。せめて可愛い写真をあげたり、楽しい事を日記みたいに書けるサイトだったら良かったのに。


 テスト期間中って知ってるユメカの嫌がらせよね。


 ママが次に開いちゃったのは、3だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る