忘れ路の言ノ葉

　かつてこの世界の裏側にて、あやかしと戦う退魔師と呼ばれる人々がいた。
　
　されど、今はもういない。歴史ある退魔師の末裔である風海小乃葉は、自らの祖父の死をきっかけにその歴史に終止符を打つと決めた。あやかしとは人の恐怖によって生まれた存在であり、科学が高度に発達した今の世では、人々は未知への恐怖を忘れあやかしもいなくなった。故に退魔師は人に必要とはされなくなったのだ。

　その決断は、即ち風海小乃葉にとって自らの半身を忘れることと同義であった。退魔師という生き方を忘れ、これから表の世界でどのように生きたらいいのか。

　そんな言いようのない不安と忘却に導かれ、彼女は見知らぬ土地へと流れ着くのであった。


　――此処は、忘れ路の流れ里。忘れ去られたもの達が流れ着く、彼岸と此岸の狭間の世界。