第1話 2

あっという間の出来事に、黒髪の女性は固まったように動かなくなった。


砦が完成して驚く女性をよそにベルは杖先を黒髪の女性にむける。




「体を楽にしてじっとしてて。」




“心の1段〔じんのいちだん〕”


ベルはそういうと、杖の先を黒髪の女性に向ける。

黒髪の女性の全身に一瞬で雷が走ると、怪我をしていた場所が光り治癒していった。


血の抜けたような真っ青な顔色に変化は無かったが…怪我による痛みは無くなったのか、強張っていた表情が柔らかくなっていた。



そして、ハゲから預かったマントと自分のマントを女性に被せてもう一度杖を向ける。



“心の0段”



赤い雷が女性の全身を包むと白いマントはワンピースと靴とポンチョのような形状になる。



「驚いた?


この力は、“ホープ”。

その名の通り人類最後の希望で…魔法みたいな力で…。


この武器は“キーウエポン”。


変形式の鍵型の兵器で…。


ごめん、頭悪る過ぎて上手く説明できないから詳しい話はそこの青髪ノッポに聞いて。」




青髪の男を指差しながらそう言ったベルは、かまくらの中を出て杖形態のキーウエポンの端を地面につけて力を込めた。




“心の0段 ”



ベルが力を込めた場所を中心に赤い雷がはしると小さな渦が5個できて周りの雪や岩を集めていく。



漫画や絵本でよくみる、ゴーレムなのだろう。

それぞれの渦が、岩や雪を集めていき真っ白なユニコーンを作り出した。

それぞれが、2本の前足をあげてバタバタと振っている。



「襲え。」



ベルは、杖先を砦に向けてそう言った。

向けた杖の先に向かって4体のユニコーン達は、全力で走り出していく。


ユニコーン達が砦に向かうと、ベルは青髪の男性が地面に刺したであろうキーウエポンを指差した。



「一応、使えないとは思うけど保険としてあのキーウエポンは置いていくから。」





ベルはそういうとキーウエポンを剣形態ににして残していたユニコーンの背に跨がってシオ達の方にむかっていく。


「おーそーい!」


「焦んない焦んない。

一休み、二休み。」




獣人と戦いながら、シオはそう言っていた。


獣人も軍刀〔サーベル〕や槍、銃をつかい戦っている。

奴らの使う兵器は、人が使う物と同じやつだけど人が作ったものよりずっと強力だ。



「休んでばっかじゃん!

はーたーらーけー!」




シオはそういいながら、器用に獣人達を斬っていった。

シオの動きは、獣人達より良かった。



いや…シオの動きが、人間の限界を越えていたみたいだ。




「了解です、おじょうさん。」



ベルは、ユニコーンの助走の勢いをのせて剣を振ったが獣人が振ったサーベルに押し返されてユニコーンから吹き飛ばされた。


その様子をみた獣人は勿論、ベルとの距離をつめていく。



「やべ。

体〔たい〕をかけるの忘れてた。」




ユニコーンから、落ちたベルを獣人は剣を振り下ろして追撃するがベルはキーウエポンでそれを受け止めていた。


受け止めたのは、いいが徐々に押されている。

ベルが弱いからこうなっているのではない。




獣人は、人間よりも知能も身体能力が遥かに高い。

これが普通なのだ。




「油断すんなぁ。」



ハゲは、ベルを押さえていた獣人を横に真っ二つに斬った。


獣人は、生命力は人より強いが弱点は人と同じ。

頭や心臓を貫けば、死ぬ。

無論、ハゲがしたように剣で体を割っても絶命する。


「サンキュー、ハゲ。」



“体の1段〔たいの1だん〕”



ベルは、剣を両手で握り空に掲げる。

剣から放たれた雷がベルの体を包み、雷が消えると共にベルは動いた。


動きは、先ほどの比じゃない。

目で追うのがやっと。



次々と、獣を切り裂いていく。

返り血を全身に浴びながら進んでいる。




「ベル、ゴーレム借りるよ!」



“技の一段〔ぎの1だん〕”




シオは、獣を襲うユニコーンに跨がってキーウエポンを掲げる。

刀身に炎を纏わせて、そのまま獣に向かってキーウエポンを振って炎の斬撃を飛ばした。



炎の斬撃は、大規模な爆発を起こして獣と一緒に砦の扉を、破壊する。

大砲でも壊れなさそうな扉を容易く。



「んじゃ、“アイク”いってくるわ。」




ベルは、青髪の男にそういうとユニコーンを集めてハゲとシオと共にユニコーンを引き連れて砦に入っていった。

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