第1話 5


「簡単に自己紹介をいたしましょう私は、元神官。


神が信じられなくなり信仰を失おうとも、生き方を変える気はありません。

生き物は全て平等であり、兄弟。


ただ…間というシステムを作ったアナタ方、獣人は許しません。」




「何が元神官ダ。

元とはいえ、こんな簡単に命を奪うシスターなど初めて聞いたワ!」




徐々に物質になっていく獣は、アンナに向かってそう叫ぶ。

それに対してアンナは、左手で口を押さえてクスクスと笑い出した。



「あら、言葉の意味が理解できなかったのですか?

自己紹介をしたのは言葉が理解できる生き物としての誠意として口にしただけです。


貴方の知る知らないに意味も興味ありません。」



アンナは、そう言うと縦に杖を大きく一振りして先に物質となった獣を粉々にする。




アンナは既に肉体を強化しているようで、目の前にいた獣を片手で掴み車から離すように軽々と投げた。



「さて、覚悟はできましたか?

まずは、尋問をしましょう。」


「断ル。

先ほど、殲滅するといったんだ生かす気はな…。」



アンナは、獣の話を遮るように物質に変わった獣の右足を杖で砕いた。

ガラスが割れたような音と共に足だった黒い破片が辺りに散らばる。




「ァアアア!!」




獣は、砕けた足を抑えながら叫びだした。

足からは血が出ておらず今もなお、徐々に獣を石にすべく黒く変色している。


アンナは叫び声を止めるように今度は、生物のままの顔の部分を杖で殴り獣を横に倒す。




「私の0段は、細胞や物質の成分を変える力。

人と細胞の成分が近くて助かりました。



ただ、神経まではいじれなくて感覚は毛ほども変わりません。

ほら…なんだか話す事はありませんか?」


「ふざけるナ!

仮に自分が助かったとしても、同胞を売るような事はしなイ!!」




アンナは、そういうと獣に対して優しい笑みを浮かべた。

左手で口を押さえて笑う姿は、異種である獣でさえも目を奪われているようだった。



「フフ…。

憎むべき相手でも、自分の意思を曲げずに貫く方は好きです。


情報を口にする気がないのなら…一思いに逝かせてあげましょう。」



“心の0段”



アンナは、杖を再び獣に当てて獣を一気に物質に変える。

顔を最後に一気に黒くなっていった。



「止めろォォォ!!」



「罪深い体から解放された魂が、どうか救われますように。」




そう言ったアンナは、祈りを込めた後に杖を縦に大きく振って物質にかわった獣を叩き割った。




「よっす、アンナ。」



ベルは、アンナの近くに着くとユニコーンを消してゆっくりと歩いた。

アンナも、ベル達に気がついたのか満面の笑みで3人を見ている。





「あら、ベル様にシオ様に…ハゲ様!」


「ハゲちゃうわ!

短いけど、髪はあるがな。」



ハゲは、自分の頭を撫でてアンナに髪があることをジェスチャーした。

そんなハゲの姿をアンナは、左手を口にあてて優しい笑みで笑っている。


…が、シオは冷たい目でハゲを見ていた。




「…いいよ、そんな似非関西弁。

うっとうしい。


それに、髪じゃなくて名前の事を言ってるんでしょ?

なら、普通そのことを指摘するんじゃないの?」



ベルは、シオのそんな姿をみて咄嗟に両肩を掴む。

だが、すぐに掴んだ両肩は離した。




「なんした!?

急に冷たくなって。」



「だってー。

獣にあって機嫌が悪くなってるなか、ハゲの一言に、イラッてしたんだもん。」



シオは、両手をひろげて前に歩きだした。

そんなやり取りをしていると、車のエンジン音が響く。


一瞬敵かと思ったら、運転席からアンナが出てきた。




「この車は、私たちでも扱えそうです。

これをつかって、アイク様達の元に合流しましょう。

ベル様の0段なら、この砂なんて簡単に避けられますよね?」


「りょーかい。

ハゲ、運転とナビのドッチがいい?」



そういうハゲを見ると、彼ははすでに助手席に移動している。

ベルが何かを言おうと口を開くがバタンとドアを締める音を聞いて言葉を紡ぐのをやめた。



「ほら、ぼーっとしない。

いくよ、ヤス。」



ちょっときた放心状態のベルに荷台からシオが声をかけた。


人の気もしらないで…。

ヤレヤレとボヤキながらベルは、キーウエポンを起動させて杖形態にする。



“心の0段”



杖を振って、砂を固めた地面を作ったベルは直ぐに運転席に乗って車をアイク達の元に走らせた。

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