息を吐き、息を吸う。呼吸の度に恐怖が肺を満たしてくる

 いやはやなによりくすぐり方がとにかく上手い。
 見事なのは提示される情報量と距離感の塩梅ですよ。まさに作者の掌の上で良い様にビビらされている自信があります。

 都合の良すぎる奇怪な出来事や過去の出来事として、ひたりひたりと恐怖がにじり寄ってくる。
 視点が何度も変わります。
 事態の只中にいる何も分からない子供の視点。
 恐ろしい何かが起きていることだけは察し踏み込んでいく大人の視点。
 恐ろしさを理解し距離を保つ専門家側の視点。
 忍び寄る恐怖が寸止めを繰り返しながら視点が変わるたび、物語は大きく緩急をつけて一息入れさせてくる。
 けれど視点人物が見聞きした全てを知る読者にだけは、背筋に冷たい何かが尾を引き積み重なっていく。

 得体の知れない何かに翻弄される登場人物に、生半に情報を持つこっちはこうしろああしろ、今すぐ逃げろと指図したくなる。けれど恐怖の本当の姿は我々も知らない。
 送り狼のように、恐怖が付かず離れず、けれど決して逃がしはしないという意思を持って迫ってくる。
 視点人物の点と点が繋がり収束するのにつれて、恐怖も距離を詰め、こちらを仕留めようと包囲を狭めてくる。
 続きの気になる作品です。

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