みんなこわい話が大すき

尾八原ジュージ

こわい話なんかきらい

四年二組-01

 こわい話がきらい。


 幽霊の話ばかりのってる本がきらい。

 心霊映像とかもきらい。

 こわい人や犯罪の話も大きらい。


 でも、ありさちゃんはこわい話がすき。

「ふつう好きでしょ、そういうの」

 ってきっぱり言い切るくらい大すき。

 きらいな人のことなんか何にも考えてないくらい、すきらしい。


 たしかに四年二組の子たちは、わたし以外みんなこわい話がすき。

 図書室でこわい本を順番まちして借りてくるし、こわいテレビ番組があった次の日には、みんながその話をしてる。

 なんでかっていうと、みんなありさちゃんがすきだから。

 ありさちゃんがとてもかわいくて、美人で、勉強ができて、スポーツができて、家がお金もちで、四年二組の女王さまだから。


 わたしが転校してきた日、ありさちゃんはニコニコしながらわたしに「ひかりちゃんはこわい話、すき?」とたずねてきた。

 わたしは「きらい」とこたえた。

「えーっ、ふつう好きでしょ? なんで?」

 ありさちゃんは「本当におどろいた!」みたいに大きな声をあげた。教室にいたみんながわたしの方を見る。

「つまんないからきらい」

「ふーん。でもよくないんじゃない? そういうこと言うの」

 ありさちゃんは「今度おもしろい本かしてあげよっか?」といって首をちょっとかしげる。ちょっとウェーブのかかった長い髪がさらさらで、ほっぺたが白くてすべすべで、とってもきれいな子だなと思うけれど、いやな子だな、とも思う。

 たしかに、こわい話がすきなひとの前で「つまんないからきらい」なんて言ったのはよくなかったかもしれない。でも、きらいなものはきらい。ありさちゃんがどんなにすすめてきても、きらいなものはきらい。

 そうじのとき、別の子に「ちょっと」と小声で話しかけられて、「ありさちゃんに逆らわないほうがいいよ」って注意されたけれど、そんなこと言われたってきらいなものはきらいだから、むりやり「すき」なことにしたくなんかない。

 学校にいるときくらい、そうやって過ごしたい。


 わたしが転校してきた次の日、教室に入るとわたしの机がひっくり返っていた。わたしの机だけが。

 みんながちらちらこっちを見ている。

 わたしは背中がざわざわして、とてもいやな気分になる。ロッカーにランドセルを入れて机を直していると、ありさちゃんがこっちにやってくる。

「おはよう、ひかりちゃん!」

 とてもうれしそうな顔で近づいてくる。

「机どうしたの?」

「朝来たらひっくり返ってた」

「えーっ、なんで? ねぇ、だれかやったー?」

 ありさちゃんは大きな声をあげてきょろきょろしながら、クラス中のみんなに声をかける。「知らない」「やってない」という声があちこちから上がる。

「えーっ、変なの。こわいねー」

 ありさちゃんは最後ちょっぴりだけ、机を戻すのを手伝ってくれる。しかたがないので「ありがとう」と言うと、ありさちゃんはにっこり笑う。

「どういたしまして。でも変だよねー」

 ちっとも変じゃないよ、と思うけれど、わたしはだまって席につく。ありさちゃんは自分の席にまだ戻らない。

「だれも知らないなんて変だよねぇ。もしかして幽霊のしわざかな?」

 わざとらしいくらいゆっくり、ゆっくりと「ゆうれい」という。

「こわい話つまんないとか言ってたから、ひかりちゃんにばかにされたと思ったんじゃない?」

 わたしはだまって授業のしたくをする。ありさちゃんは「幽霊に何かされたら言いなー」と言いながら、自分の席にもどる。


 それから毎朝わたしの机はひっくり返るようになった。うわばきや靴が下駄箱から勝手に移動したり、ロッカーの中身がぜんぶ床にぶちまけられていたりするようになった。

 そういうことは、ありさちゃんが休んでいる日にも起こる。ほんとうにぜんぶ幽霊のしわざだったらいいな、とわたしは思う。わたしと目を合わせないようにしている子たちを見ながら、そんなことを考える。


「ひかりちゃん、また机ひっくり返されたの? こわいねー。まだ幽霊怒ってるんじゃない?」


 わたしが困っていると、ありさちゃんはとても楽しそうだ。

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