まず、本作の冒頭を少し読むだけで異国情緒と濃密なリアリティを感じるだろう。入念な下調べの元、綴られたであろうセリフや細かな日常描写は、当時のヤンゴンをありありと描写し、そこに息づく人々を鮮明に描いている。
キャラクター達は一癖も二癖もあり、明確な過去を背負って今を生きている。日本という国とは違う、当時の決して治安が良いとは言えないミャンマーを舞台に、何かしら欠点のあるキャラ達が織りなす物語は人間臭く退廃的であるが、美しさを感じるだろう。歪なパーツが奇跡的に噛み合い、一時だけでも綺麗な形を成して崩れていく様な、一瞬の安定と崩壊が生み出す美しさと同じ物がこの作品には存在すると感じる。
情緒的で雰囲気があるが、泥臭く暴力的な文体も内容とよく合っており、アジアンデカダンスと言うべき本作は総じて完成度が高い。
本作に目を通して後悔する事はないだろう。