自分が何者か? というのは古今東西の物語でよく扱われる普遍的なテーマだ。
そして本作は冒頭から偽物呼ばわりされた双子の片割れの少女マイが、様々な経験を経て自分自身が何かという答えを見つける話である。
定期的に子供たちが消えては新たに補充される不気味な施設、人間に良く似たアンドロイドを作る《電気羊》と、電気羊に捨てられた《山羊》たちの対立、目に映るもの全てが砂に覆われた荒廃した世界の情景など、本作には物語が広げられそうな設定や要素が無数に散りばめられている。
だが、本作はそれらの要素を大して掘り下げない。物語はあくまでマイの視点から彼女の身の回りで起きることだけが語られ、劇中で起きる重大な出来事もかなり淡々とした様子で流されていく。そして物語には偉大なる勝利もなければ世界の秘密が暴かれるなんてこともない。
こうして様々な要素をストイックに削ぎ落した結果、物語には「彼女が何者か?」というシンプルな解答が残る……のだが、この解答が凄まじく残酷なのだ。
WEB小説には枚数の制限がないため、いくらでも話を長くできる。これはWEB小説の長所と言えよう。だが、書くべきテーマを絞り込み、一人の少女の半生を短編に落とし込んだ本作には、そうした作品では味わえない独特の凄みと鋭さが存在する。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)