自らに問う。自らを、問う。

僕は毎日死んでいる。ほら、今日も僕の目の前に電車がやってきた。もう少しもう少し。僕は死んだ。そして死んでいない。織り成す矛盾を繰り返す、僕の一日のお話。

まず、主人公である「僕」の置かれた状況はたいへん深刻だと思います。レビュー主である私は「死」が怖い。いつか死ぬのが怖いのです。だから自殺をしようと思ったことは一度もありません。だから私にとってこの作品は、自分が歩けなかった場所を歩けているような、そんな感覚をもたらしてくれました。
「僕」の状況と行動は日常からかけ離れているのですが、「僕」は私たちと共有できる感情も持ち合わせています。異常……と呼んではいけないのかもしれませんが、異常と正常の状況が同衾しているため、読者は「僕」の思考へと自然に導かれることになります。そこには張り裂けそうな思いがあります。この世への恨みとか、そういうものではないのです。自分との闘争、自分との葛藤。読者は、ただただ自分と向き合う「僕」という存在に気づくことができるでしょう。

これは、ただただ人間の心情に切りこんでいった、自問の物語だと感じました。
おそるべき表現の連続が、あなたと「僕」をぴったりと重ね合わせてくれることでしょう。