叔父が甥を、甥が叔父を思い合う、迫真の人間ドラマ

キャプション部分を読んで、叔父さんと甥の諸国怪異漫遊記を想像していたら、自己肯定感ゴミカスの男に、人を愛し人から愛されるまで、大好きだよと伝え続けるヒューマンドラマでしたありがとうございます。

世界観、プロット、どれもみっちり作り込まれていて作者様の高い地力を感じます。ミステリーが得意な方が、情報管理の力点をずらして、巧妙なサスペンスに組み立てている、という印象でした。
他の方も言及されていますが、生人剥や否穢多(この文字に込められた別の意味にもびっくり!)なども言葉選びも秀逸です。
詳細不明な妖怪「わいら」を用いるとは珍しいな~と思っていたら、なまじ知っていたぶん「牛かわず」を流してしまって、後で仰天させられた一幕も。このへん、作者様の掌でコロコロされている気分でした。

明かされていく因習それ自体はとんでもないおぞましさなのですが、大学生の主人公の目を通して語られるそれは、重さがクドくなく読みやすいのもありがたいところ。かといって薄っぺらくならないのは、そうした事実に対して発生している現在=叔父さんの現状について、主人公が真摯に向き合い、どうにかしたいと足掻き続けるからこそ。叔父が甥を、甥が叔父を思い合う、そのドラマはまさに白眉。

いつも物腰柔らかで、丁寧な口調で話す「叔父さん」。そんな彼が周囲から不当な扱いを受けていたり、自分が知らない面を見つけていったりして、主人公はどんどん彼の真実を追い求めていく。

この倫他おじさん、ヘキに刺さる人がいたらそれはもう情緒がめちゃくちゃになるポテンシャルを秘めたキャラクターだと思うので、甥っ子と仲が良くて物腰丁寧な叔父さんキャラが好きな人は、ぜひご一読ください。

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