閉じていた始まり、開いていく終わり

『英雄の看取り士』というタイトルで、飛鳥休暇さんを知る人なら「ファンタジー社会派小説ね」と思うはずです。ええ、『ファンタジー社会派小説』でした。

ファンタジーにも社会があるわけですので、そこにも現実社会同様に、理不尽な出来事や解決しなければいけない社会問題があったりするわけです。
基本的に小説をはじめとしたエンタメ作品というのは『一番楽しい場面』を書くものだと思います。ミステリーであれば事件発生から犯人逮捕まで。恋愛であれば恋に落ちてから結ばれるまで。ファンタジーなら勇者に選ばれてから魔王を倒すまで。
その前段階や終わったあとの話などはメインではないわけですから、誰も見向きもしないわけです。
だけれど、ちょっと待てよ、と。
誰も目を向けなかったから気付かなかったけれど、でも「こういった問題もあるのではないか?」と、ファンタジー世界の実際にはあるはずであろう社会と向き合っているのがこの作品なわけです。

誰もが……そう。読者のみならず創作家でさえもフォーカスを当てて来なかった英雄のその後。社会の闇と救いの光を描いたファンタジー社会派小説。閉じていた始まりが開いていく結末を、どうかお見逃しのないように。

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