不登校の中学生の一夏の物語です。描かれるのは、家族との関係、友達との距離、そして自分自身との向き合い方。食べること、泣くこと、笑うこと――そんな日常の積み重ねが、当たり前のようでいて、なかなか取り戻せない『現実』、そして、劇中劇として描かれる宇宙人とだって食べて話し合って仲良くなる『脚本』の世界と、二つの物語が交差することで、物語はより深みを増していきます。
主人公、理解者の大人たち、友達、だけでなく、中学生の視点から周りの全ての人を描ききる筆致は鮮やかで、ひきこまれること間違いありません。
温かく感動的な作品ですが、その温もりは、夏輝が経験する苦悩や葛藤を、丁寧に真摯に描いているからこそ生まれるものだと感じました。
『夏輝』は、一つの夏の中で繊細に揺れ動く心の機微を描いた、心温まる現代ドラマやね。読んでると、まるで自分も映画のセットの一員になったような感覚になって、胸がじんわりと温かくなったわ。
主人公・夏輝が、叔父さんとの交流を通して少しずつ自分を見つめ直し、新たな一歩を踏み出していく物語は、読者の心にもそっと寄り添うような優しさがある。舞台となる劇団の世界や映画撮影のシーンが、まるで映像を見ているように鮮やかに描かれていて、リアリティがあるのも魅力やね。
特に印象的やったのは、夏輝が叔父さんと花火をするシーン。浴衣を選ぶ場面から始まり、夜空に舞う花火の描写、そして夏の匂いが感じられるような静かなひととき……この一連のシーンが、夏の儚さと温かさを同時に伝えてくれる。大切なものに気づく瞬間って、こういう何気ない時間の中にあるんやなって、しみじみ感じたわ。
また、映画を通じて夏輝が自分自身を見つけていく過程も素晴らしかった。最初はエキストラとしての誘いだったけど、次第にその世界に惹かれ、自らの意志でアイラ役を演じたいと思うようになる。その心の変化がとても自然で、読者も一緒に応援したくなるね。
この作品は、「自分らしく生きること」の大切さを優しく教えてくれる。読んだ後、温かい気持ちとともに、どこか前向きになれる物語やった。夏の終わりの少し切ない空気と、未来へ踏み出す勇気が詰まった素敵な作品やで!✨
ユキナ💞
中学生の男の子が自分と向き合い周囲と共鳴する物語です。
正直に言うと最初は少しじれったく感じました。それくらい丁寧。読み進めてその丁寧さが大切なんだと感じました。
もっと衝撃を持って伝えることも出来るし、そうしている創作や主張が多いですよね。例えばアフリカの貧困を伝える時に瘦せ細った子供の映像を見せるような。あれは良い手段の1つではあるのだけど、この物語はより良い手段をとっています。読んでいて側で一緒に過ごしているような感覚がありました。
すでに何かが失われた悲劇で語るのではなく、読者を一緒に過ごさせることで何を守ろうとしているのかをじっくりと、建物を建てるように順を追って見せてくれます。根気強くテーマにあった伝え方を完遂しているところがなによりよかったです。
ただそれだけでじれったさが許されるかと言うとそうではないです。構成の工夫も光ってます。脚本の部分が序盤は笑い、後半は物語の芯を表現していてめっちゃ良かった。また両親との距離感から少しずつテーマを明かしていく速度。最後に万事不安なく解決しないバランス。よいです。
いたずらにおもしろさを追うことをせず、伝えたいテーマと大切に向き合い読む人皆に見事に理解させてしまう物語。おすすめです。
夏の物語でした。
叔父さんの元へ遊びに行き、浴衣を着て花火をしてスイカを食べる。
ただそれだけの……しかしただそれだけが、どれだけ尊いことか。普通に夏を満喫することができなかった主人公夏輝にとって、それがどれほど幸せなことだったか。
途中、演劇のセリフが合間合間に挟まるのですが、最初はただの賑やかしだった設定的なそれらが舞台装置として働いて、物語の本質に迫っていく様は、もう、もう……ため息が出ました。
本当に素晴らしかった。
センシティブな内容でありながら、しっかりと深堀りし、ディテールを凝らすことで、『対外的でアカデミック』なものではなく、『しっかりと芯を通した真実』となっておりました。
読み応え、満足度、めちゃくちゃ最高でした。
いや、ほんと良かった。