脚本と現実が重なり合って奏でる『当たり前』のこと

 不登校の中学生の一夏の物語です。描かれるのは、家族との関係、友達との距離、そして自分自身との向き合い方。食べること、泣くこと、笑うこと――そんな日常の積み重ねが、当たり前のようでいて、なかなか取り戻せない『現実』、そして、劇中劇として描かれる宇宙人とだって食べて話し合って仲良くなる『脚本』の世界と、二つの物語が交差することで、物語はより深みを増していきます。

 主人公、理解者の大人たち、友達、だけでなく、中学生の視点から周りの全ての人を描ききる筆致は鮮やかで、ひきこまれること間違いありません。

 温かく感動的な作品ですが、その温もりは、夏輝が経験する苦悩や葛藤を、丁寧に真摯に描いているからこそ生まれるものだと感じました。

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