ファンタジー作品を読んでて、いつも思うんです。
英雄とか勇者って、最初はヘタレだったりしますよね。でも、苦労して、努力して、技術を身に付け、力を身に付け、魔女や女神も味方に付ける。そうして得た、多くの仲間達と協力して、世界の悪を倒す。その結果をもって、周りの人達から「英雄」と言われるわけでしょう?
マッカーサーは「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」と言って退任したそうです。
── Old soldiers never die; They just fade away ──
英雄も、悪をやっつけたら、あとはフェード・アウトして終わり。
でも、それっておかしい。英雄だって、歳をとって、体が思うように動かなくなるだろうし。死を迎えるにあたって、倒して来た者たちが夢にあらわれる恐怖もあるだろうし。それを考えると夜も眠れない(笑)
そんな部分に焦点をあてたのが、この作品です。(あ、やっと本題に)
英雄の行く末を案じていた王より依頼された看取り士の目を通して、英雄の心の中を丁寧にトレースしていく物語。
やっぱり、英雄は強いだけじゃない。優しさも必要なんだなー。
そう思える、読んだ後で、安心できる、読者を安眠に導く作品です。
英雄のその後が気になって眠れない人には、100%おすすめの作品です。
『英雄の看取り士』というタイトルで、飛鳥休暇さんを知る人なら「ファンタジー社会派小説ね」と思うはずです。ええ、『ファンタジー社会派小説』でした。
ファンタジーにも社会があるわけですので、そこにも現実社会同様に、理不尽な出来事や解決しなければいけない社会問題があったりするわけです。
基本的に小説をはじめとしたエンタメ作品というのは『一番楽しい場面』を書くものだと思います。ミステリーであれば事件発生から犯人逮捕まで。恋愛であれば恋に落ちてから結ばれるまで。ファンタジーなら勇者に選ばれてから魔王を倒すまで。
その前段階や終わったあとの話などはメインではないわけですから、誰も見向きもしないわけです。
だけれど、ちょっと待てよ、と。
誰も目を向けなかったから気付かなかったけれど、でも「こういった問題もあるのではないか?」と、ファンタジー世界の実際にはあるはずであろう社会と向き合っているのがこの作品なわけです。
誰もが……そう。読者のみならず創作家でさえもフォーカスを当てて来なかった英雄のその後。社会の闇と救いの光を描いたファンタジー社会派小説。閉じていた始まりが開いていく結末を、どうかお見逃しのないように。
この世にあるさまざまな争いごとーー剣闘、スポーツ、ゲーム、そして戦争には、常に勝者と敗者が存在し、なかでも最も優れた一握りの者には「英雄」の名が与えられます。
ですが、その「英雄」の人生は、果たしてその武勲に相応しい最高のエンディングを迎えるのでしょうか。
残念なことに、過去数多の「英雄」「スター」たちが、侘しく寂しい晩年を過ごし、人知れずその生を終えているのです。
本作もまた、彼らの「最期」とそれを看取る者の姿を描いた、切なさを堪えきれない作品でした。
ただ彼は最期には、かつてのような「英雄」の心を取り戻すことができたようにワタクシには思えました。きっと幸福な死であったと、そうであったことを願ってやみません。
そして、彼の名の下に、救われて、まっすぐに伸びていくであろう子供たちの笑顔が彼が「いかに英雄であったか」を雄弁に語り継ぐことでしょう。
素敵な物語を、どうもありがとうございました。
生涯に偉大な仕事を成し遂げた人も、最期を看取る人に恵まれるとは限りません。史実においては、たとえば、物理学の相対性理論を提唱したアルバート・アインシュタインは、晩年はアメリカに移住していたにも関わらず末期の一言を郷里のドイツ語でつぶやいたために、周囲にドイツ語を聞き取れる人間がおらず最後の言葉が永遠に失われました。世の中に取り返しのつかないことはあります。
本作においては、戦場看護師が、かつて英雄と呼ばれた男性の末期を世話することになります。
英雄と呼ばれても、おとぎ話のようにはいきません。
それでも、その英雄の末期には看取る人が居ました。いろいろあった男性の人生において、そこだけは、小さな幸せとして残ったのではないか。読んだ私はそう思い噛み締める次第です。