「スイッチ」というものが、強烈なイメージとして迫ってくる話でした。
強迫性障害の主人公は、スイッチを見ると押さずにいられない。
そうして次々とスイッチを押すのですが、主人公の日常が強烈に変化していく。
ごくなんでもない場所に、「スイッチ」が出現していく。スイッチは一回押せば消えてくれるけれど、「一回でも押してしまう」と次からも現れ続ける。
スイッチという、日常のなんでもないものが「恐怖」として描かれ、更にそれらがどんどん日常を埋め尽くしていくという、今までにないヴィジュアルイメージが提示されました。
無機物なのに「集合体恐怖」のような存在感を持ち、更に主人公が麻薬中毒にでもなって抜け出せなくなっていくような、独特で鮮烈なインパクトを持っています。
すごい存在感のある作品でした。一度読んだら忘れられない、圧倒的なインパクト。是非とも手に取って確認していただきたいです。
レビューで一般文芸作品のテキストを記すことは著作権法の「引用」を踏み越えるかもしれず、カクヨム運営様よりペナルティを受ける可能性もあります。しかし、どうしても比較したい作品があり、引用だと主張します。
枡野浩一による短歌です。
-- 引用開始 --
色恋の成就しなさにくらべれば 仕事は終わる やりさえすれば
-- 引用終了 --
仕事はやれば終わります。しかし……
本作のキャッチコピーは「全て押さなければならない」。
でも、「全て」とは、どこまででしょう? 終わりは、どこ?
本作を読むと、どのようにすれば「終わる」のか見失います。それは、まず恐ろしく、そして苦しい体験です。
そして終わらない話を終わらせる手管は見事です。感情は言葉にし難いですが。
切れ味鋭い短編です。