ただの妖怪退治ではない。日本の歴史や社会と密接に繋がった恐怖。

この物語は、ただの妖怪退治の話ではありません。妖怪という存在を通し、古くからの日本文化や社会の「闇」を深く鋭く抉り出し剣を突き立てるような、現代ドラマにも似た鋭さを孕む作品です。

妖怪と聞けば、人間に害をもたらす厄介な化け物、というようなイメージが浮かびます。
けれど、日本の文化の中に「妖怪」という存在が発生したそもそもの理由に、深く思いを馳せたことはあるでしょうか。
この物語に足を踏み入れた瞬間、おどろおどろしく忌わしい妖怪たちが蠢く闇に取り込まれると同時に、なぜ彼らがこの国に蔓延るようになったのか、その理由が私たちに押し寄せてきます。
それは、人間が文明を発展させるに従い破壊され始めた自然環境や大気バランスにも似ているかもしれません。
私たちの心の「負」の部分、「闇」の部分が形を得て暴れ出す。数知れない人々の晴れることのなかった恨み、憎しみ、悲しみ。それらが一つに纏まり、計り知れない力を持つようになったら——。このような恐るべき力を持った妖怪たちが、いつ出現してもおかしくない。
この物語を読み進めるに従い、ただの妖怪退治とは全く違う、日本の歴史や社会とまさに密接に繋がった恐怖を呼び起こされます。

妖怪は、ただの憎むべき架空の化け物ではない。人間の負の感情が生み出した、私たちの心から分化した一部、と言えるのかもしれない。そんなことを、作者様は確かな文献等を元に理論的に積み重ね、独特の説得力を持って読み手に迫ってきます。
非常に個性的な魅力を放つ現代ファンタジー長編。おすすめです。

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