「どうか無事に成り上がって。二人で幸せになって」と。切に祈ってしまった

いわゆる「成り上がりもの」は世に多くあると思いますが、本作のように切実に、心から「どうか無事に成り上がって! お姉ちゃんと二人で幸せになって!!」と思ったのは、なかなかなかった経験でした。この切実さは、もしかしたら「成り上がりもの」ジャンルでは初めてくらいの経験だったかもしれません。
なのでこのレビュー本文も、だいぶん感情が乗った書きくちになっているのではないかと思います。

異世界へ転生した主人公は、特別なものを何ひとつ持っていませんでした。
神さまがお詫びに授けてくれたすごい力なんかありません。現代知識チートなんかありません。転生先では貴族に生まれましたなんてこともやはりなく、財産だってありません。
周りからは軽く見られてるけど実はすごい力や才能を持っていて――なんてことも、やっぱりありません。なにもないです。本当に特別なものなんか何も持たないただの凡人です。
転生した彼が持っていたのは、優しい家族。
たった一人の、血を分けたお姉ちゃんだけでした。

主人公のレンは姉と二人、真綿で首を締め上げるように日々苦しさを増してゆく極貧の暮らしから逃れるため。そのために冒険者となって成り上がり、姉と二人でおいしいご飯を、暖かい家を、飢えや寒さに怯えることのない「城壁の中の暮らし」を手に入れるために足掻く、そんな主人公です。
ファンタジーなら雑魚中の雑魚というべきゴブリン(それも「レッサー」とつくような弱小!)一匹倒すだけでも命懸け。恐怖に足を震わせながら、慎重さと覚悟、能うる限りの準備と一握りの幸運で、一瞬の油断がすべてを終わらせてしまう、死と隣り合わせの戦いを切り抜ける。
性質の悪い先輩冒険者に捨て石にされそうになったり、優しい先輩冒険者に助けられたりしながら、雑魚退治や荷物運びの経験を経て少しずつ少しずつ力をつけて、成り上がりというには未だささやかな普通の暮らしを手に入れてゆこうとするのです。

未だ物語は半ばで、この先の展開がどう転がっていくのかは分かりません。
ですが、この物語に期待することがあるとすればただひとつ。レンくんはどうかお姉ちゃんと二人で幸せになって。
二人にはどうかこの先何一つ奪われることなく、飢えからも寒さからも遠い、あたたかい幸せな暮らしを手に入れてほしい。
願わくばそうなってほしいなあ……と、心から思う次第です。

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