様々な色合いを帯びた家族の愛情が詰まった、ずしりと重みのある物語。

昭和、平成、令和。男女が出会い、新たな命が生まれ、時代を経てつながっていく家族。
この世に命が生まれる。大切な相手と出会い、愛を育み、また新たな命がこの世に生み出される。当然にも思えるこれらの輪廻が、どれほど尊いか。読み終えて、そんな余韻が深く残る物語です。

大学で絵画を学び、恋には臆病だった主人公、櫻絵。彼女の身の上にある夜起こった残酷な出来事により、彼女の人生は激しく動き出します。
辛い出来事を経験して初めて知る自分自身の本心。自分が誰を必要としているか、誰と共に生きたいか。こうして櫻絵は、これまでなかなか踏み出すことのできなかった真剣な恋に向き合います。

櫻絵と母親の感情の衝突と和解。櫻絵を苦しめる過去の心の傷、それを優しく包み込む夫。長い苦しみの末に二人が予想もしない形で迎える小さな命。その命の驚くべき出自——。様々な「家族の感情」が生々しいほどリアルに絡み合い、深い痛みや喜びを生み出していきます。

物語の根底に常にあるのは、家族や肉親への絶え間ない細やかな愛情です。茅葺の家の庭を彩り、そこに住む家族を暖かく見守るしば桜。その小さな花たちが送る優しいエールは、何世代もの子供たちの心の中に静かに届いていきます。
家族をいつでも深く思い合うこと。一言で言うと簡単ですが、これほど難しく、また尊いことはないのだと、作品を読み終えて深く心に刻まれます。

様々な色合いを帯びた家族の愛情がぎっしりと詰まった、ずしりと重みのある物語です。ぜひ、ご一読ください。

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