6話 訓練前

「なぁ、この間あの根暗な魔法使いの授業受けたじゃん。早くチートスキル使いてぇよ。」


「俺もスキルを使ってみたい。部活みたいに訓練ができたらいいんだけどな…。流石にぶっつけ本番で戦ったりはしないだろうが…」


「うーん、頼んだらスキルの試し撃ちぐらいはさせてくれるんじゃない?」


最初にぼやいたのは勇者、それに同意したのは守りの英雄だった。そして提案をしたのが聖女だった。そうして彼らは城の者に聞いて訓練場に向かい、そこの騎士に訓練場を使えないかと頼みにいくことになった。


勇者たちは突然訓練場に現れ、「スキルを試してみたい」と騎士たちに願い出ました。騎士たちは彼らの頼みを聞き入れ、「少し休憩してからだな」と応じました。騎士たちが休憩している間、勇者たちはどのスキルを試すか話し合いました。


彼らはこれから戦うことになる魔物のことを思い出し、興奮が高まるなかで、自分たちの力がどこまで通用するのか試してみたいと期待に胸を膨らませていました。しばらくすると、準備が整ったという声がかかり、勇者たちは訓練場へと導かれました。


「私はこの大国の誉れある将軍、アルノスだ。こちらは私の補佐を務める騎士団長、ジルフィートである。我々がしっかり指導するので、そのつもりで訓練を受けてほしい。」


アルノス将軍は、騎士団長のジルフィートと共に勇者たちの前に立ち、堂々と名乗りを上げました。


アルノスは40歳手前の男性で、くすんだ茶髪を短く刈り、口と顎にはヒゲを生やしています。彼は将軍用の騎士の制服を身にまとい、鋭い水色の瞳で勇者たちを見つめていました。


ジルフィートは20代前半の若者で、長い金髪を束ね揺らしながら、騎士用の制服を着て、腰には剣を差しています。彼の涼しげな黄緑色の瞳は、勇者たちを優しく見守っていました。


「戦いの経験がない君たちには、まず基礎的な訓練を行う。この場を走ってもらうぞ。さあ、できるだけ走ってみるんだ!」


アルノス将軍は、勇者たちにこう指示を出しました。


「は?そんなの必要ないよ、おじさん。それより早く、スキルの使い方を教えてくれよ!」


「そうですね、私もその意見に賛成です。早くこの能力を使ってみたいんです。」


「私はヒーラーなので、走る必要はないと思います。」


勇者達がそのようにアルノスに抗議していた。最初に抗議の声を上げたのは流行る気持ちが抑えられない勇者。


「うーん、確かにスキルを早く使いこなしてほしいのですが…。基礎訓練は必要だと思うので言っているのですが、本当にやらなくてよいのですか?」


将軍はやる気満々で食い気味な様子の彼らに戸惑いながらも、そう尋ねました。


「やらなくていいよ!そんなのいらないって!」


勇者はそう答えた。


「まあよい…ではスキルの使い方の説明だが…ジルフィート、教えてやってくれ。」


意気込みが強くて言うことを聞かなさそうな彼らに、将軍はため息をつきながらジルフィートに交代しました。アルノス将軍は感覚派で、初歩的なことを教える自信がないようだった。


「では、説明しますね。一番わかりやすいスキルは身体強化でしょうか。少々お待ちください。」


そう言いながら人型の人形を運び出した。


「訓練用の人形です。非常に硬く、通常の力では破壊しにくい構造になっています。」


彼らの前に人形を3つ置きつつそう説明した。


「身体強化は戦いにおいて必ず必要なスキルです。皆様にはぜひ覚えていただきたいスキルですね。肉体を強化することで、この人形も破壊できるようになります。では、よく見ていてくださいね。」


説明を終えて剣を抜き放つと、一つの人形へと剣を振り下ろしました。人形が割れる音が響き、ゴトリと人形は真っ二つになって地に落ちた。


「勇者様と守りの英雄様はこの訓練用の剣をお使いいただいて、肉体の強化を試しつつ訓練用の人形に切りかかってみてください。あ、ご自分のスキルは使わない方がよろしいですよ。強力な分、制御や扱いが難しいでしょうから。」


そう言いながら訓練用の剣を彼ら二人に手渡しました。


「よっしゃ!あんな人形ぶっ壊してやる!!」 「剣道は一度やったことあるし、いけるだろう。」


二人はスキルを使う気満々だ。


「いや、待ちなされお二人共。先ほどの説明をきちんと聞いておられましたか?お二人ほどの強いスキルをいきなり使うのは危険です!!」


「何言ってんだ!スキルを使わないと訓練にならねーだろ!?」

「スキルが使いたくてここに来ているしな。」


アルノスがスキルを使う気満々の2人を静止しようと声を荒げていたが2人は聞く耳をもっていない。これ以上は何を言っても無駄な様子に将軍はため息をついた。


「聖女様は後ろの方で下がってお二人を見守っていてください。」


ジルフィートは彼女を安全な場所へと誘導して控えさせた。彼らがスキルを使うなら、近くにいるのは危険と判断したようだ。



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探求の果ての彼方へ 雲色 翼 @ruri6464

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