5話 授業

このようにして誰かに物を教えるのは久しぶりですね。また学園の先生になった気分です。やる事は似たような事ですしね。


だから、これは彼らに異世界の力について知ってもらう為の授業です。これは必要な事なのです。やらねばなりません。世界を救う為に…。


「魔法使い達はまず己の魔力を知覚して操ります。魔力にはそれぞれ属性があります。勇者殿は全属性、聖女殿は光と聖属性、英雄殿は光と土、無属性ですね。魔力もスキルも、その使い方を知り、しっかり知覚することができれば扱いこなせます。」


だるそうに聞いている彼らを前に丁寧に説明しつつ、壇上にあったコップを手に取りました。


「魔法使い達は自らの魔力は水のようである、とイメージしているものが多いですね。魔力は血のように体の中を流れ巡るもの。」


そう説明しながら空のコップへと魔力を注ぎ水として実体化させてみせた。水が出現し流れるようにしてコップの中へと入っていった。


彼らはコップを面白そうに見ていました。早くスキルを使いたがっております。冷たく見やって、彼らのはやる気持ちを削がしました。


「…他の属性も出してみましょうか。風は大気を動かし揺らす…。これが風の力。」


私はコップの中の水を魔力で揺らしてみせつつ説明をしました。


「土は水を吸い頑丈で固く、土が多ければ我ら人間の踏みしめる大地となる。それが土の力。」


コップの中に土を魔力によって実体化させてみせた。彼らにしっかり見せてから土を消し、コップを壇上へと置いた。


「火は熱を与えものを燃やす。熱を生み燃え続ける、それが火の力。」


私は手のひらを彼らに見せるようにして出して、そこに火を出現させて見せた。彼らの目がキラキラと輝いておりました。


火の力でその場がほんの少し温まりました。彼らが火を感じたのを確認して消しました。


「光と聖なる力は光、清め、癒やす。どちらも似ていますが少し違います。聖属性は光の上位能力の位置にあります。」


私は両手を出して、その上に二種類の光を出して見せつつ説明をしました。

説明が終わると共に光を消しました。


「そして最後は闇、闇は混沌の力で取り扱いは難しくとても危険な属性であります。あなた達が使うべき力ではありません。」


闇だけは出現させませんでした。闇は人を惹き付ける力もありますからね。闇属性は悪事を成すのに有利な力、彼らには使わせない方がよろしいでしょう。


「知識を増やし魔法やスキルの力を扱う術を習得すれば、もっと強力に効果的に扱えるようになります。だからこそ皆さんにはきちんと知識を得ていって欲しいのです。」


「先生、氷と雷はないんですか?私見て見たいです。」

聖女様がそのように聞いてきました。


「その2つは魔法の範囲ですね。上位の属性なので扱いは難しいですが、少々お待ちを。」


私は説明しつつ懐から羽ペンを取り出し魔法陣を台の上に書き記していった。


「上位属性、魔法を扱う時は魔法陣を描きます。全ての記号を間違えなく印、陣を歪ませず書かないとなりません。そして正しき呪文を唱えなければなりません。でなければ…失敗しますので。」

そう言いながら陣を完成させる。そうして声を殆ど出さず小さく口元で呪文を紡いだ。


パキリと氷が陣の上に出現させ、コロリと氷の塊を台の上に転がした。


「熟練の魔道士は術を悟らせないよう最小限に術を組みます。なので呪文も相手に聞き取らせないように致します。」

氷の魔法陣を手のひらで拭い消し、次に雷の陣を描き、呪文を口を殆ど動かさずに紡いだ。


ビリビリと音を鳴らせ雷が出現した。


「今回は簡易的な術式なので攻撃魔法にはしませんでした。この2つも危険な属性で取り扱い注意の属性です。」

そう言いながら雷と魔法陣を消した。


「魔法の実施訓練に関しては城の別の魔道士が教えてくれるので、きちんと話を聞いて授業を聞いてくださいね。では、私はこれで。」


そう言い残して私は彼らを残しその場から去りました。


はあ…。


部屋を出て少ししてからため息が出ました。

彼らはやる気こそあれど、彼らの態度は不真面目かつお気楽で能天気そのものでした。どれだけ丁寧に説明し注意をしていてもあまり意味をなしませんでした。


彼らはあまりにも真面目に話を聞いていませんでした。興味のある部分だけしか聞いていなかったのです。


そして、他の教師役は私ほど優しくなどない。


…彼らが折れない事を祈りましょう。


…これから先の苦労が思いやられました。

私にできる精一杯をし続けるしかありません。

本当に... ...、どうにかして欲しいものだ... ...。

あんな彼らを頼らざるを得ないとは・・・、気がとても遠くなりました。


次の講座は将軍殿ですか。

一応見に行ってみましょうか... ...。彼ならうっかり彼らをへし折り兼ねません。

死なせはしないでしょうが... ...、とても心配です。



「あれが召喚されし勇者... ...。」

「駄目そうに見えるな」

「ありゃ、戦えるんかね?」

「やる気だけはあるな。」

「... ...やる気だけはな。」


訓練場に行くと勇者らの様子を見に来ている者達が訓練場の奥に集まっていて、彼らの様子を見物しながらそのような事を口々に話していた。


私はこっそりと自らの気配を消しつつ訓練場に入っていき、彼らの目線の先の勇者達を見た。訓練場に将軍殿と騎士団長殿が勇者たちの前に立っておられました。


「将軍も彼らに訓練させるのは厳しいと思ったんだろう。」

「ああ、だからジルフィートがいるんだな。」

「青の騎士団長のジルフィートはなかなか有能で器用なやつだしな、面倒な任務だが奴ならなんとかできるだろう。」

「強い上に女、子供の扱いはうまいしな。」

「奴は顔もいいし。容姿が整ってる。」


などと訓練場を見ている者達が言っていた。


容姿が整っているのは能力と関係ないのでは…?しかし、器用なお人らしいし、彼らに言う事を聞かせれるかもしれない。私はそっと見守る事にしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る