3、ハラワタを喰らい尽くされる娘達



「‥‥‥違うのだ。其方らの戦い方はまるで連携が取れておらん‥‥」


 テーブルを囲む4人。


「違わない!私達の攻撃は間違っていない!」


 勇者マルチナはテーブルを叩き、立ち上がった。


「‥‥‥‥どうぞ」


 そこに4人分の温かい紅茶が入ったカップを持ったガーゴイル。


「‥‥どうも」


「ありがとうございます」


 戦士レナと僧侶メリルがにこやかにお辞儀する。


「全力でずっと攻撃をすれば良いというわけではないぞ」


「メリルには結界を張って貰っているし、防御力アップの魔法も使ってる!」


 戦士レナと僧侶メリルの行動は、勇者マルチナの命令で成り立っている。


「‥‥‥余が全ての魔法効果を打ち消す『輝く波動』を使う直前に何故使うのだ‥‥」


「いつ使うかわからんのに対処出来るか!そんな技を使う方が悪い!」


 魔王の技としては定番である。


「‥‥‥‥余の攻撃は1ターン目の最弱魔法以降は2ターン目から6ターン目の攻撃を繰り返しているだけだぞ」


「‥‥‥そうなのか?」


 呆然とする勇者マルチナ。


「‥‥‥‥これだけ戦って何故気付かん‥‥」


 1ターン目:最弱魔法

 2ターン目:強攻撃(単体)

 3ターン目:最強炎魔法(全体)

 4ターン目:最強氷ブレス(全体)

 5ターン目:最強雷魔法(全体)

 6ターン目:輝く波動


 以降2ターン目へ、ループ。



「それに、其方らはいつまでその貧弱な装備で余と戦うつもりなのだ‥‥」


 勇者マルチナと戦士レナは『銅の剣』

 僧侶メリルは『木の杖』

 防具は3人共、布製の『村人の服』

 初期装備である。


「‥‥‥宿の経営も上手くいき、モンスターもそれなりに倒せてるのだから金はかなりあるであろう。いい加減買うなりしたらどうだ?」


「そうだな、せめて武器だけでも良いものが欲しいな」


 魔王の言葉に同意する戦士レナ。


「‥‥‥‥すまない皆。お金は余り無いんだ‥‥」


 勇者マルチナは目を逸らし、苦い顔をした。


「私は、貴方に貰ったこの指輪で勇気を持てた‥‥‥だから部屋から出れたんだ!」


 『勇者の証』である。


「‥‥‥それはわかっておる、それで金は何に使っておるのだ」


「ダリル君が吟遊詩人クラブっていう店のオーナーになる為に一緒に頑張ろうって‥‥だからダリル君にはお金がいるんだ!」


 ホストクラブ的な。


「‥‥‥何だそれは?」


 キョトンと魔王。


「私は勇気を出したんだ!勇気を出して、ちゃんと告白した、だからダリル君は一緒に頑張ろうって言ってくれたんだ!」


 ガシャーンッ!


 力説する勇者マルチナの言葉に紅茶のカップを落とす僧侶メリル。


「‥‥‥嘘」


 僧侶メリルは蒼白な顔で呟く。


「メリル殿、気持ちはわかるがマルチナ殿は純粋ゆえ、騙されただけではないかと‥‥‥悪いのはダリル、マルチナ殿ではない」


 見るに見かねて、割れたカップを片付けながらガーゴイルが口を挟んだ。


「嘘よ!‥‥ダリルさんは私と一緒に吟遊詩人クラブを作るって。マルチナは遊びだと‥‥‥私が本命だと言ってくれた‥‥」


 僧侶メリルはそう言うと部屋を飛び出した。


「待ってメリル!」


 後を追う勇者マルチナ。

 残された戦士レナに向かって魔王が声をかける。


「‥‥‥‥其方らも色々と大変なのだな」


「あの2人は純粋なのよ‥‥‥」


 そう言うと戦士レナは紅茶を飲み干し、立ち上がった。


「任せて、私が何とかするわ」


「頼んだぞ、戦士レナよ」


 椅子に座り足を組む魔王。


「2人にはダリルの事を諦めさせる。ダリルは私と結婚するんだから‥‥‥紅茶、美味しかったです」


 戦士レナは深くお辞儀して、颯爽と出て行った。



「この世界の未来は戦士レナにかかっておるな」


 入り口を見つめたまま悠然と魔王。


「‥‥‥魔王様、今回はかなり厳しいかと‥‥‥」


 呆然と立ち尽くすガーゴイル。


「‥‥何故だ?」


 驚く魔王。


「勇者マルチナのパーティーは、ハラワタまで喰らい尽くされております」


「‥‥‥その言い方カッコいいな」


 魔王の間は静寂に包まれた。






「魔王様、勇者が攻めて参りました!」


 物々しい翼の生えたガーゴイルが、魔王の座る玉座の前で跪きながら報告した。


「‥‥今回の勇者は誰だ?」


 玉座で頬杖をついている魔王。


「お喜び下さい!Lv67の勇者マルチナ率いる3人パーティです」


「‥‥‥あやつら何か大変だったのではないのか?」


「良いではないですか、レベルも確実に上がっております」


 ガーゴイルの言葉に魔王は頷くと笑みを浮かべた。

 

 ギギギギギッ!


 勇者マルチナのパーティーが颯爽と現れた。


「魔王、覚悟!」


「‥‥‥其方ら、もう大丈夫なのか?」


 魔王は頬杖をついたままである。


「私達の結束は固い!侮るな!」


 勇者マルチナの言葉に、大きく頷く戦士レナと僧侶メリル。


「‥‥ダリルさんはお金を持って私達の前から消えました。私達はもう騙されません」


 そう言うと僧侶メリルは銀色に輝くメイスを構えた。

 呼応するように戦士レナも、立派な斧を魔王に向ける。


「‥‥‥まあ問題が片付いたなら良しとしよう」


 魔王は玉座から立ち上がり勇者マルチナを見た。

 勇者マルチナはどこか古びているが、切れ味の良さそうな剣を構えていた。



「よく来たな勇者マルチナと仲間達よ。二度と歯向かえぬよう、其方らにこの世の物とは思えぬ絶望を味合わせてくれるわ」


「魔王、覚悟!」


 勇者と魔王の壮絶な戦いが今始まる。





 魔王と勇者マルチナの戦いが始まった頃、部屋から退出したガーゴイルは城の地下牢にいた。

 魔王には内緒の仕事。

 その手には、血に染まった吟遊詩人固有の装備『銀の竪琴』が握られていた。

 

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