8、キング肉まん
「勇者マルチナよ待っておったぞ!」
玉座に座る王は跪く勇者マルチナを見下ろしながら、鼻の下を伸ばした。
「やはりいつも可愛いのぉ。魔王を倒した褒美もまだ与えておらん、其方の願いならなんでも聞き入れようぞ。さぁ近うよれ!」
醜く太った身体をクネクネさせながら、勇者マルチナを卑猥な目で舐めまわすように見る王。
「‥‥‥あれが人間の王なのか?」
勇者マルチナの隣で跪く村長。
「そうだ」
大きな肉まんに見えた。
「その服はどうしたのだ、素晴らしいぞ! ワシの好みにピッタリじゃ‥‥‥可愛いのぉ、大好きじゃ」
村長に貰ったメイド服。
「‥‥‥余はあれに討伐をされておったのか」
「そうだ」
小声でヒソヒソと話す二人。
「して、その横におるいけすかん男は誰じゃ? ワシは整った顔の女は好きだが、男は嫌いであるぞ。国の者ではないが打首にするか?」
この国に住むイケメンは死罪という、とんでもない法律がある。
もちろん王の肝いり。
「余はカークス村の村長に御座います」
村長は顔を上げ肉まんを見た。
「ほぉ〜、あのカークス村の」
そう言うと肉まんは見覚えのあるチラシを、懐から取り出した。
「ダンジョンの経営とは考えたの、なかなか良い手腕をしておる。この募集のチラシも見たぞ、ワシも王でなければカークス村ですぐに働いたであろう、高待遇過ぎるぞ! しかし部下を大事にする組織は必ず成功する、覚えておけ!」
チラシを見る無能で純粋な暴君。
「して、その村長が何用じゃ?」
「勇者達のパーティーにナンバリングして頂きたい」
「何故じゃ?」
「王はこの国の任命した勇者が何人おるのかご存知ですか?」
「‥‥‥多過ぎてわからん」
苦い顔をする肉まん。
「何人の勇者を任命し、従わせているのか大々的に発表すれば王の威厳は揺るぎないものになります」
「なんという策士じゃ!」
驚いた顔をする肉まん。
「勇者個人に番号を付け冒険者カードを持たせるのです。パーティーに勇者は必須な為、そうすればメンバーが変わってもパーティーの管理は出来るかと」
跪き肉まんを真っ直ぐ見る村長。
「カークス村の村長よ、其方気に入ったぞ。詳しく聞かせよ!」
「‥‥‥では」
ニヤリと笑う村長であった。
「貴方に貰った服をジロジロ見てきて不快だった!」
王の間を退出した後の勇者マルチナの言葉。
「‥‥‥無能で楽だった」
村長は一仕事終えた顔。
冒険者カードを配り管理することを国に約束させたので大満足。
「勇者マルチナ様とカークス村の村長様、しばしお待ちを!」
王の間から慌てて出てきた肉まんの横に立っていた男。
「魔王を倒した勇者マルチナ様のパーティーを、栄えある冒険者番号1番にする様にと王が仰せであります」
個性的な顔をしたこの国の宰相。
「ここにパーティーメンバーの詳細を書いて下され」
受け取った書類をそのまま村長に渡す勇者マルチナ。
事務仕事は壊滅的に苦手、変な書類にサインしないよう村長にキツく言われていた。
書類を読みサラサラと書き出す村長の横で、宰相が勇者マルチナに耳打ちする。
「‥‥‥例の件、いかがで御座いますか?」
「私は王になどならん」
「勇者マルチナ様なら国民も納得致します。このままではこの国は滅びます、お願い致します」
「‥‥‥クーデターか」
書類を書きながら村長。
「カークス村の村長様、其方ならわかって頂けるであろう。あの王にはもう誰も付いてこないのです。私を含む家来一同、意思は固くもはや暴動が起きるのは時間の問題で御座います」
「‥‥‥穏やかではないな」
書き終わった書類を宰相に渡す村長。
「私は嫌だ。貴方がなれば良い、私は付いて行くぞ」
村長の方を向く勇者マルチナ。
「私共は勇者マルチナ様の推薦であれば、実績のあるカークス村の村長様でも構いませぬ」
村長の方を向く宰相。
「‥‥‥余では色々おかしな事になる。そもそも宰相よ、其方が王になればよかろう?」
「‥‥‥私では国民が付いて来ません。理由はなんとなくお分かりでしょう?」
個性的な顔の宰相が自虐気味に笑う。
王になる物には威厳も大事。
「‥‥‥その話はまた今度ゆっくりいたそう、一度カークス村に顔を出してくれ。宰相よあまり事を急がんように皆を抑えておけ」
「‥‥‥はっ!」
すでに軍門に降ったかのように、村長に平伏す宰相。
「今日はこれで失礼する」
遠ざかる村長と勇者マルチナの背中を見つめる宰相は、受け取った書類に目を向けた。
「‥‥‥いったいこのパーティーで、どうやって魔王を倒したのだ。‥‥‥まともな職業はマルチナ様だけではないか」
新たな主君は物凄い人なのかもしれないと、勝手に思い込む宰相であった。
【冒険者番号0001 勇者マルチナ】
パーティーメンバー
勇者マルチナ Lv99
武器屋レナ Lv92
神父メリル Lv85
村長 Lv?
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