9、【第二部 最終話】村長と勇者
「冥界への入り口が判明致しました」
村長の間で跪くガーゴイル。
「‥‥‥遂にわかったか」
玉座でニヤリと笑う村長。
「‥‥‥邪神のステータスもわかったのですが、これを」
ガーゴイルは村長に近づくと書類を渡した。
「‥‥‥体力100,000って」
書類に目を通しながら村長。
「攻撃力999、余でもかなりダメージを食らうぞ‥‥‥なにこいつチート?」
「かなり強いですな」
「強いってレベルか?立ってられんだろう」
レベルMAXの勇者マルチナの体力は625。
ちなみに村長の体力は8,000。
「‥‥‥どうされます?」
「倒すに決まってるだろう!」
胸を張り言い放つ勇者マルチナ。
「流石奥方様!」
ガーゴイルはニヤニヤと笑う。
「‥‥‥勝手にやる気にさせるな」
村長はガーゴイルを睨んだ。
「勇者マルチナよ、このまま戦っても勝てん」
「そうなのか? 貴方が居てもか?」
驚く勇者マルチナ。
「‥‥‥恐らく邪神の一撃に耐えれる人間はおらん。其方らは1ターン目の全体攻撃で全滅するであろう。その後は邪神と余の一騎討ちになるが、余も1人では勝てん」
「‥‥‥すまない」
不甲斐なさに落ち込む勇者マルチナ。
「其方は何も悪くない。むしろ邪神の強さがおかしい」
「大好きだ!」
最近チャンスを見つけたら飛びついて来ようとする勇者マルチナを手で制し、村長はガーゴイルの方を向く。
勇者マルチナの舌打ちをする音が小さく聞こえた。
「ところで勇者が冥界の入り口を通るまでは、イベントは進まんと思って大丈夫であるな?」
「はい。勇者が冥界に入ると邪神は世界を滅亡させるために、攻撃を開始します」
「つまり誰も冥界に行かなければ、このまま邪神を冥界に閉じ込めておけると」
ニヤリと笑う村長。
「その通りですな」
ニヤリと笑うガーゴイル。
「私は邪神を倒すぞ!」
胸を張る勇者マルチナ。
「奥方様、今回ばかりはあまりにも敵が強すぎますので‥‥‥」
跪くガーゴイル。
「邪神に怯えながら、皆生きていけと言うのか!」
黙るガーゴイル。
「こちらから出向かなければ、邪神は攻めてこんのだぞ」
「今は来なくても、もし私たちがいなくなったずっと未来で、勇者が間違って冥界に入ったら世界は終わるんだろ?」
「‥‥‥そんな後のことまで面倒見きれんぞ」
「だから今のうちに‥‥‥貴方が仲間のうちに邪神を倒さないと世界は救われない!」
珍しく一理ある。
「‥‥‥其方は融通が効かんな」
呟く村長。
「夫婦そろって本当に」
溜息のガーゴイル。
「‥‥‥怒るぞ」
「村長、王国の宰相様がお見えになっております!」
玉座に座る村長に村人Aが跪き報告した。
「‥‥‥もう来たのか。通せ」
「はい!」
国の最高幹部が村長に会いに来る、あり得ない事である。
村長の間に通される宰相。
「‥‥‥村の様子を見させて貰いましたが、最早王国のようで御座いますな」
村長の間、入り口から轢かれた赤い絨毯の上に跪く宰相。
「貴方様が村長の器で収まるような方ではない事、薄々勘づいておりましたが。この発展の早さはいったい‥‥‥」
魔族達が寝ずに頑張っている成果。
「余は村長である、それ以上でも以下でもない。今日はどうした」
玉座で足を組み宰相を見る村長。
「以前の話の続きに御座います」
「今は邪神の事で忙しい、人間の王になどなっておれん」
「‥‥‥人間の王‥‥‥に御座いますか」
国の最高幹部まで登り詰めた男、勘が鋭い。
宰相はニヤリと笑つた。
個性的な顔でなければカッコ良かったかもしれない。
「宰相よ、余は先程も言ったが忙しい。邪神を倒す手段を考えねばならんのだ。あの肉まんでしばらく我慢しておれ」
「邪神を倒すとは、村長の仕事の幅を超えておりますな」
ニヤリと笑う個性的な顔の宰相。
「‥‥‥お主は頭がキレるようだな。何か勘づいておるのなら、余の邪魔をするな。国ごと吹き飛ばすぞ」
脅す村長。
「何か勘違いされておりますが、私の主君は貴方様で御座います。人間の国がいらぬのであれば、それで構いませぬ。私は従うのみ!」
跪く宰相。
「‥‥‥そうか」
「好きなように私をお使い下さい」
「一つ頼みがある、邪神のいる冥界の入り口が判明した。そこに勇者達を絶対に近づけるな」
「‥‥‥はっ!」
嬉しそうに笑いながら頷く宰相。
初めての命令である。
「そういえば勇者達の管理は進んでおるのか?」
玉座に足組みをして村長。
「はい、もう殆ど終わっております。冒険者カードの発行まで滞りなく」
これでダンジョンに入る勇者達の管理が楽になる。
「勇者は何人おったのだ?」
「10,582人で御座います」
「‥‥‥お主の国は勇者を製造しすぎだ」
パーティーにするとおよそ四万人、もう軍隊だ。
「かなり数が多いが、勇者達を冥界の入り口に近づけないなんて出来るのか?」
「お任せ下さい、私の指示はあの国ではかなり有効です。従わない勇者はおりますまい」
宰相なのでかなり権力がある。
「‥‥‥一万人の勇者が従うのか」
村長はニヤリと笑うと、横に立つ勇者マルチナを見つめた。
「なんだ? 可愛いか?」
「‥‥‥どう考えても、今はそんな話ではないであろう?」
「‥‥‥どうした?」
「其方の願い叶えられるかもしれんぞ」
村長はもう一度ニヤリと笑うと、立ち上がり宰相を見下ろした。
「気が変わった、人間の国の状況などを詳しく説明せよ。今より国盗りを開始する。宰相よ、余に付いて参れ」
「‥‥‥はっ! ありがたき幸せ!」
床に付くほど頭を垂れる宰相。
その顔は笑みで溢れていた。
その宰相を柱の陰から、物凄い形相で睨んでいる魔族が1人。
ガーゴイルは嫉妬の業火に燃やし尽くされていた。
夕方の日課、カークス村を散歩する2人。
ダンジョン経営の成功により通りには人が溢れていた。
村人の経営する酒場や食堂が並び、賑やかで活気がある。
しかし村長が村を歩くと、尊敬と畏怖を込めて人々は道を譲ってくれるのであまり散歩には支障はなかった。
「思っていたより早く軌道に乗ったな」
経営の話。
カークス村は増築を続け、村と呼ぶにはおかしな大きさになっていた。
募集していた村人候補も大量に集まり、村人になった者も多い。
「受付も増えて私は楽になった」
勇者マルチナがいない時はエリーゼが指揮を取っている。
「その服、受付の時以外は着なくても良いのだぞ」
「私のお気に入りだ」
ニコリと笑いスカートの裾を掴む勇者マルチナ。
「貴方には感謝してもしきれない」
「‥‥‥何がだ?」
「宿屋は大繁盛だ!」
遠くに見える宿屋を指差し勇者マルチナ。
城にしか見えない。
「其方、金を受け取らんではないか」
宿屋の利益を渡そうとしたが、勇者マルチナは頑なに拒んで受け取っていなかった。
「私は祖父の代から続く宿屋が存続すれば満足だ!」
「‥‥‥本当に無欲であるな」
「それにお金は私が持っていても、また誰かに騙されて取られるかもしれない」
「‥‥‥余を信じすぎだ。裏切って宿ごと取られるかもしれんぞ」
ニヤリと笑う村長。
「余は今でこそカークス村の村長であるが、魔王であるぞ」
「貴方に騙されているのなら、私は諦めて全て受け入れる。何も言える義理はない」
少し寂しそうな勇者マルチナ。
「‥‥‥すまん冗談だ」
暫く沈黙で散歩は続く。
「次は王様になるのか?」
「人間の王など興味はないが、それが邪神を倒す近道かもしれん」
此方を振り向く勇者マルチナを見下ろす村長。
「私に難しい事はわからないが、貴方が言うなら間違いないんだろうな」
「‥‥‥今回はどうなるかわからん。邪神はかなり危険だ、それに王国のクーデターの件もある。其方は村に残っても良いのだぞ?」
「なんで言い出しっぺの私が残るんだ!」
「守りきれんかもしれんぞ」
勇者マルチナを見下ろす村長。
「‥‥‥死ぬのは慣れている、何度も貴方に殺されていたぞ?」
キョトンとした目で見上げる勇者マルチナ。
「‥‥‥確かにそうであったな」
また暫く沈黙。
2人は村を出て草原を歩く。
いつものお散歩コース。
オレンジに染まる草原は美しい。
「あっ! そういう意味か!」
沈黙を破る勇者マルチナ。
「‥‥‥急になんだ」
前を歩いていた勇者マルチナが凄いスピードで駆け寄ってきて、ピョンと村長に抱きついた。
「気付かなかった、貴方は私を守ろうとしてくれたんだな!」
村長にしがみつきながら、微笑む勇者マルチナ。
「‥‥‥余が言った言葉そのままであるが」
「私はストレートに言われるのに慣れてない、気付くのに時間がかかる時がある!」
「厄介な性格であるな」
「もっといつもストレートに言って貰えると、すぐ理解出来るようになる!」
村長の顔を両手で持ち、真っ直ぐな目で見つめる勇者マルチナ。
「顔が近いぞ」
「嫌か?」
「‥‥‥嫌ではない」
「違う! もっとストレートになんか言って!」
頬を染めながらも我儘な勇者マルチナ。
「今回もしつこいな」
「違う! 私が嫌いか?」
「‥‥‥嫌いではない」
「違う!」
「‥‥‥好きなのだろうな」
「違う!」
「‥‥‥違うのか」
「‥‥‥あれ?‥‥‥あの、もう一回お願いします!」
「好きだ」
「‥‥‥本当か?」
「おそらくな」
勇者マルチナは満面の笑み。
「私も大好きだ!」
村長は頬を赤く染める勇者マルチナをそっと抱きしめた。
黄金色の草原が風で揺れていた。
〜〜〜 第二部 完 〜〜〜
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