【第三部】魔王(♂)とマルチナ(♀)
1、魔王とマルチナ
城の玉座の間。
「本当に私じゃなきゃ駄目か?!」
玉座の前で足を踏み鳴らす勇者マルチナ。
「其方以外で王になれる人間はおらん」
「貴方が攻め落とした城だ、このまま貴方が治めればいいじゃないか!」
「余は魔王ぞ、人間の国を治めるわけにはいかんだろ?」
玉座の前で跪く魔王。
「私は貴方の嫁になると決めだんだ! 私だって職業は『魔王の嫁』だ、人間の王になれるわけがないだろう!」
「まだ結婚しておらんし、結婚しても其方の職業は『勇者』のままであろう‥‥‥。何故『勇者』より『嫁』を優先するのだ‥‥‥」
「それぐらい貴方の方が大事って事で‥‥‥」
モジモジと頬を染める勇者マルチナ。
「‥‥‥まあ、それは良いのだが‥‥‥其方が王にならんと其方の願いが叶えられんぞ?」
「そうなのか?!」
「全ての勇者を従えられる者を王にしなくては、邪神には勝てん」
「王になったらあまり会えなくならないか?‥‥‥せっかく好きだって言ってくれたのに、貴方と少しでも離れるのは嫌だ!」
「‥‥‥駄々をこねるでない」
「寂しいのは嫌だ!」
勇者と魔王の口論は続く。
「奥方様 少しよろしいですか?」
魔王の後ろで跪いていたニヤニヤ顔のガーゴイル。
「‥‥‥どうしたの?」
「魔王様は奥方様を一人にはしないと思いますので、寂しがる必要はないかと思います」
「そうなのか?!」
「なんやかんや言って魔王様は奥方様ラブでございますので」
「本当か?!」
「私にはそのようにしか見えませんので、安心なさっても大丈夫でございます」
「そうか! それならば良し!」
ニコニコと玉座に座る勇者マルチナ。
その顔からは王になる覚悟が出来た事を感じさせる。
「‥‥‥お主、本人である余が目の前におるのに、良くそのような発言を恥ずかしげもなく出来るな?」
跪きながら振り向いてガーゴイルを見る魔王。
「このような場でイチャイチャと口論なさっているお二人より、余程マシにございます」
玉座の前に跪く魔王の後ろには、ガーゴイル率いる魔王軍の精鋭と宰相率いる人間軍の精鋭がそれぞれ右と左に分かれ、ズラリと並んでいた。
「仲が良くて微笑ましいですな」
ニコニコと個性的な宰相。
「‥‥‥宰相、お主もか‥‥‥」
苦い顔をする魔王であった。
城の会議室。
椅子に座りテーブルを囲むのはマルチナ、魔王、ガーゴイル、宰相の4人のみ。
「して、準備は整っておるか?」
「はっ、全て滞りなく。明日就任式を執り行い、急ぎ国民に向けての演説をしてもらう予定でございます」
「そうか」
魔王の問いに頭を下げ答える宰相。
彼らのクーデターは成功していた。
形上は魔王を撃ち破った勇者マルチナが魔王軍を従え、国民を苦しめる王を倒した事になっている。
実際は王の味方など誰もおらず、中から糸を引く宰相達によりあっさりと入城し、王を幽閉しただけ。
「人前で話すのは苦手だ‥‥‥代わってくれないか?」
ちょこんと会議室の椅子に座り、不安そうな顔で魔王を見るマルチナ。
「王の就任演説に代役をたてるなど聞いたことがないぞ‥‥‥」
キョトンと魔王。
「大丈夫です奥方様、原稿は私が用意致しますので」
ニコリと宰相。
「ううう‥‥‥」
変な声を出すマルチナ。
「演説は形だけのモノですので。魔王を撃ち破った勇者マルチナが王になる瞬間を人間は見たいだけです。あまり気負わずとも奥方様はいつもの笑顔でいれば大丈夫でございましょう」
頭を下げながらガーゴイル。
「ううう‥‥‥」
やっぱり、変な声を出すマルチナ。
「‥‥‥とりあえず其方は少し休め。後の事は余達に任せよ。宰相、部屋に案内してやってくれ」
「はっ!」
ふにゃふにゃなマルチナは、宰相に連れられて会議室を後にした。
「今晩が決め時ですな」
ニヤニヤとガーゴイル。
「‥‥‥何がだ」
「ナニでございましょうな?」
「‥‥‥お主の生意気は、もうとどまる事を知らんな」
「今出来る事はこんな所でございますか?」
話し合った内容をメモしながら宰相。
「そうでございましょうな」
頷くガーゴイル。
「うむ、では後の事は任せる。勇者達の管理、忘れるでないぞ」
「はっ、抜かりなく」
「魔王様もお休みください。部屋を用意しておりますので案内します」
「うむ」
ガーゴイルに連れられ魔王も会議室を後にした。
「計りおったな、あ奴ら‥‥‥」
「‥‥‥わ、私は‥‥‥べ、別に構わないぞ!」
「‥‥‥」
案内された部屋に、先客がいる事に入室してから気づく魔王であった。
【第三部始めました】魔王(♂)と勇者(♀) 心太 @tokorotensama
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