【第三部始めました】魔王(♂)と勇者(♀)

心太

【第一部】魔王(♂)と勇者(♀)

1、魔王の仕事



「魔王様、勇者が攻めて参りました」


 物々しい翼の生えたガーゴイルが、魔王の座る玉座の前で跪きながら報告した。


「‥‥今度の勇者はどんな奴だ?」


 気だるそうに玉座で頬杖をついている魔王。


「Lv68の勇者バウンド率いる4人パーティです」


「そうか、レベル68かなかなかやるようだな」


 魔王は嬉しそうに笑みを作る。

 今度の勇者は少しは手応えがありそうだ。


「私はいつも通り入り口前で待機しております、この部屋には勇者パーティーを入れさせませんぞ」


 ガーゴイルは一礼すると魔王の間の扉を開け外に出て行く。

 勇者達を迎え撃つ為に‥‥


 暫くするとガーゴイルの断末魔が部屋の外から聞こえた。

 勇者達が来たのだろう。


 ギギギギギッ!


 魔王の間の扉が開いた。


「よく来たな勇者バウンドと仲間達よ。二度と歯向かえぬよう、其方らにこの世の物とは思えぬ絶望を味合わせてくれるわ」


 魔王の決め台詞である。


「お前が魔王か、お前を倒して俺が世界を救ってみせる!行くぞ皆!」


「遂にここまで来たのね、バウンド回復は任せて。貴方は私が守る!」


「へっ、あれが魔王か‥凄え魔力だな‥‥バウンド援護は任せろ、俺様の極大魔法をお見舞いしてやるぜ」


「バウンドさん、ここまで導いてくれてありがとうございます。私は貴方の盾となれて光栄です」


 勇者と魔王の壮絶な戦いが今始まる。






「イタタタタッ、魔王様いかがでしたか?」


 扉を開けガーゴイルが魔王の間に入ってきた。

 玉座に座る魔王と、骸となり横たわる勇者バウンドのパーティー。


「‥‥レベルの割に弱かったな」


 つまらなさそうに魔王。


「流石、魔王様です!私は全く歯が立ちませんでした」


 ガーゴイルは面目なさそうな顔である。


「城の外に捨ててこい。どうせ教会で蘇るだろう」


 ガーゴイルは頷くと、数名の部下を呼び勇者達の亡骸を抱えて部屋の外へ出て行った。







「魔王様、勇者が攻めて参りました」


 ガーゴイルが跪きながら報告した。


「どんな奴だ?」


 玉座で頬杖の魔王。


「Lv5の勇者マルチナです」


「‥‥‥レベル低くないか?仲間が強いのか?」


 最低でも魔王に挑むならLv30は欲しい。


「資料によりますと、パーティーメンバーは‥‥いないようです」


「‥‥そいつ、大丈夫?縛りプレイか?」


「では、私はいつも通り入り口前を」


 一礼するとガーゴイルは扉を開けて、外に出て行った。


 暫くすると勇者の断末魔が部屋に響く。

 ガーゴイルはにこやかに戻って来た。


「魔王様、やりましたぞ!」


 ガーゴイルは満面の笑みである。


「‥‥そりゃそうだ」






「魔王様、勇者が攻めて参りました」


 ガーゴイルの報告。


「して、どんな奴らだ?」


 魔王は頬杖。


「Lv5の勇者マルチナです」


「‥‥‥また?レベルも上がってないではないか。パーティーは?」


「えっと‥‥今回もメンバー無しです」


「舐められておるのか?」


「では、私はいつも通り入り口を」


「待て、魔王を舐める勇者の顔を見てみたい。奥に下がっておれ」


「しかし魔王様、決まりが」


「‥‥良いから下がっておれ」


 ガーゴイルは渋々部屋を後にした。


 ギギギギギッ。


 魔王の間の扉が開く。


「よく来たな勇者マルチナと仲‥‥二度と歯向かえぬよう、其方ら‥‥其方にこの世の物とは思えぬ絶望を味合わせてくれるわ」


「貴方が魔王ね。覚悟!」


 勇者と魔王の壮絶な戦いが今始まる。


 



「流石、魔王様です」


「‥‥壮絶になる訳が無いだろ」


 玉座に座る魔王と、骸となり横たわる勇者マルチナ。


「‥‥1ターン目の最弱魔法で死んだ」


「流石、魔王様!最弱でもとんでもない威力ですぞ」


「‥‥‥それは勇者達が言うセリフだ。その後『今のは余の最弱魔法だ』ってカッコいい所なんだけど‥‥」


 勇者マルチナは見せ場もくれない。


「‥‥とりあえず外に捨てて来て」


 ガーゴイルは頷くと、一人で勇者の亡骸を抱えて部屋の外へ出て行った。


 





「魔王様、勇者が攻めて参りました」


 報告。


「‥‥‥で、誰?」


 頬杖。


「Lv5の勇者マルチナです」


「‥‥‥なんで?」


「‥‥勇者だからではないですか?」


 一礼するとガーゴイルが扉を開けて外に。


「そのまま扉開けといて」


「‥‥扉が開いてますと雰囲気が出ませんぞ」


「良い。奥に下がっておれ」


 ガーゴイルは渋々と部屋を後にする。




 暫くすると勇者マルチナが颯爽と現れた。


「よく来たな勇者マルチナ、二度と歯向かえぬよう、其方にこの世の物とは思えぬ絶望を味合わせて‥‥」


「魔王、覚悟!」


「‥‥‥勇者マルチナよ何故レベルを上げぬ。何故一人なのだ?パーティーを組め、一人はしんどかろう」


「敵の塩は受けぬ、覚悟!」


「せめて1ターンは耐えれるようになってから来い」


「‥‥‥‥」


 勇者マルチナの実家の宿屋は経営が苦しい。勇者マルチナも身を粉にして働いている為、レベルを上げる暇がない。


「ではせめてパーティーを組め」


「そんな金は無い」


 メンバーを雇うには金がいる。


「モンスターを倒せば金になるだろ?」


「‥‥そうなのか?」


「‥‥後、宿屋などどうでも良いではないか、魔王を倒す方が世界の大事ぞ」


「祖父の代より続く大事な宿屋、潰す訳にはいかん!」


「‥‥じゃあ、魔王倒すのやめて宿屋になれ」


「私は勇者だ!」


 勇者マルチナの責任感は強い。


「‥‥‥どうするのだ?」


「私は全てを叶える、それが勇者だ!」


 副業で勇者は無理である。


「魔王、覚悟!」


 剣を構える勇者マルチナ。


「‥‥‥其方と戦っても面白くない、帰れ」


「臆したか!お前はそれでも魔王か!」


 勇者マルチナの罵声が魔王の間に響く。


「‥‥‥わかった、今回だけ戦ってやる。これをやるから、もっと強くなるまでもう来るな」


 『祝福の靴』装備する者は歩くだけで経験値を得る。

 

「‥‥ありがとう」


 深くお辞儀する勇者マルチナ。


「よく来たな勇者マルチナ、二度と歯向かえぬよう、其方にこの世の物とは思えぬ絶望を味合わせてくれるわ」


「魔王、覚悟!」


 勇者と魔王の壮絶な戦いが今始まる。





「城の外に捨てて来て」


 魔王は部屋に入ってきたガーゴイルに、勇者マルチナの亡骸を指差し指示を出す。


「こやつ『祝福の靴』を持っておりますぞ!」


「ああ、くれてやった」


「‥‥ユニークアイテムですが‥‥」


 最強モンスターグレイトドラゴンが稀に落とすアイテムである。


「良い、そいつ面倒くさいから強くなるまで来るなと言ってる」


 ガーゴイルは渋々勇者マルチナの亡骸を持って外へ出た。







「魔王様、勇者が攻めて参りました」


 物々しい翼の生えたガーゴイルが、魔王の座る玉座の前で跪きながら報告した。


「‥‥今度の勇者はどんな奴だ?」


 気だるそうに玉座で頬杖をついている魔王。


「Lv8の勇者マルチナです」


「‥‥‥‥‥」


「‥‥レベルは上がっております」


「3だけな」


 沈黙が魔王の間を占領する。


「‥‥来たみたいだから扉を開けて、奥に下がれ」


 ガーゴイルが扉を開けると勇者マルチナは颯爽と現れた。


「魔王、覚悟!」


「其方は余の話を聞いておったか?強くなるまで来るなと‥‥‥」


 勇者マルチナは剣を構えたままだ。


「‥‥‥何故レベルが3しか上がっておらんのだ、歩くだけで経験値はいくらでも入るであろう‥‥」


「‥‥母が倒れて受付の仕事をしないといけなくなった、歩く事もできん。宿屋の周りに何もないから冒険者も通らん、経営状況も悪くなるばかりだ!」


「‥‥‥もう閉めろ」


「うるさい!私は経営を諦めない、魔王も倒す!」


「‥‥‥これをやるから帰れ」


 『全能の雫』全ての状態異常を無効化、体力魔力共に全回復。種族を問わず全ての生命に恩恵をもたらす。


「‥‥‥ありがとう」


「では帰れ」


「臆したか、魔王!」


 溜め息と共に魔王はいつもの言葉を言い放った。


「よく来たな勇者マルチナ、二度と歯向かえぬよう、其方にこの世の物とは思えぬ絶望を味合わせてくれるわ」


「魔王、覚悟!」


 勇者と魔王の壮絶な戦いが今始まる。






「捨てて来て」


「‥‥この勇者諦めませんな」


 ガーゴイルは勇者の亡骸を見ながら呟く。


「こいつの実家は何処にある?」


「資料によりますと、カークス村ですね」


「あそこは何かあるか?」


「何もございません」


 ガーゴイルは地図を持ってきて答えた。

 『カークス村』街道から遠く特産と言われるものも何もない。強いて言うなら、自然が豊か。


「こんな所で宿屋が繁盛するわけがなかろう」


「私なら泊まりません」


「‥‥‥よし、カークス村の近くにダンジョンを作れ。最下層の宝箱に勇者の剣を入れておけ。すぐ攻略されんように守護するモンスターも忘れるな」


「‥‥‥何の為にでございますか?」


「宿屋が儲かるであろう?」


「‥‥‥はっ!」


 ガーゴイルは跪き頭を下げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る