2、それぞれの転職
「村長、ここにお座り下さい」
村長の前で跪く魔王。
「魔王君、エリーゼって呼んでね」
用意された玉座の前で立ち止まる村長。
「‥‥‥村長の席ってこんなに物々しい感じかしら」
村長の間。
入り口から赤く長い絨毯が引かれ、その先には豪華な玉座が置かれていた。
「村の長なのだ、それなりの威厳を出して頂きたい」
跪き答える魔王。
「‥‥‥魔王君、村長変わって貰える?」
ニコリと笑い跪く魔王を見る村長。
「余では駄目だ、血族がおるであろう」
「私は村長にはならん!」
勇者マルチナは宿屋の経営さえ上手くいけばいい。村長に興味なし。
「マルチナも嫌みたいだし、魔王君よろしく。魔王君が村長になったら村の皆んなも喜ぶわ」
艶っぽい笑顔を魔王に向ける村長。
「‥‥‥わかった。暫くの間、余が村長となり村を発展させよう」
「ありがとう魔王君」
「勇者マルチナの母よ、これから余を呼ぶ時は村長と呼べ」
玉座に座り足を組む村長。
「村長、私の事もエリーゼって呼んでね」
魔王は村長に転職した。
「魔王さん、私が神父ですか?」
首を可愛く傾げる僧侶メリル。
ダンジョン入り口横に建てられた教会、ここが彼女の職場になる。
「僧侶メリルよ、余を呼ぶ時は村長と呼べ」
「村長さん、何故私が神父に?」
「復活の魔法を使えるであろう? ダンジョンで死んだ者を生き返らせる教会が欲しい。暫くしたら神父の求人をかける、見つかるまで頼む」
「‥‥‥わかりました。生き返らせてお金をふんだくればよろしいのですね」
聖職者とは思えない、悪い笑みを浮かべる僧侶メリル。
「‥‥‥やはり、いろんな意味で其方が一番頭がキレるな」
「死者から金を取るなど許されるのか!」
融通の効かない勇者マルチナ。
「マルチナ、これはビジネスよ。綺麗事では成り立たない」
「神父メリルよ、後のことは任せた」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべる神父を置き、村長と勇者マルチナは教会を後にした。
「武器屋? それは私じゃないと駄目なの?」
少し驚いた顔の戦士レナ。
ダンジョンの入り口横、教会と反対側に建てられた立派な店舗、ここが彼女の職場になる。
「其方は戦士、武器の鑑定が出来るであろう? ダンジョンで武器や防具は劣化する。次の挑戦の為に必要になるのだ、自然と客は増える。回復などの消費アイテムも置いておく、割高でな」
「困ってる人から金を取るなど許されるのか!」
融通の効かない勇者マルチナ。
「マルチナ、大丈夫。村長に任せておけばきっとカークス村は良くなるわ」
「武器屋レナよ、後のことは任せた」
中の掃除を始めた武器屋レナを置き、村長と勇者マルチナは店舗を後にした。
「教会とか武器屋とか、いったいどうするつもりなんだ!」
新しくなったカークス村。
ダンジョンの入り口は大きな建物の中。
その建物を囲むように立派な教会や店舗が並ぶ。
そのカークス村を悠然と歩く村の長と、それにトコトコと早足で付いてまわる勇者マルチナ。村長の歩幅は広い。
「勇者達がダンジョンに挑戦しやすくなるであろう」
「そうなのか?」
「ダンジョンとは危険な場所だ。挑戦して死んだら骸を発見される事はほとんどない。余は安全なダンジョンをこの村に作り、多くの勇者達をこの村に招き入れる」
「何の為にだ!」
「宿屋が儲かるであろう?」
村長は村の中央、ダンジョン入り口がある大きな建物を指差した。
「‥‥‥これが宿屋!」
まるで城である。
「中に酒場やダンジョンの受付なども作る予定だ」
「宿屋の経営の為に村ごと移転までして‥‥‥何故そこまでするんだ?!」
村長の前にまわり込み、村長を見つめる勇者マルチナ。
「宿屋の存続が其方の悲願ではなかったか?」
キョトンと答える村長。
「‥‥‥そうか!」
前にまわり込み、顔を見合わせる状況であることを後悔しながら勇者マルチナ。
その顔は驚くほど赤かった。
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