一緒に幸せになる。丁寧に綴られる日々が、温かくて愛おしい。

スーパーマーケットの正社員・空上晴男は、店長に叱られてばかりの日々を送っていたあるとき、通勤のバスに乗らずに逃げ出して、レンタカーを借りてドイツへ……ではなく、富士山を目指す。
就職に悩む女の子・春野まひるは、親友の真由美を通じて知り合った男・品下陵と交際するものの、出先で陵の機嫌を損ねたことで、高速道路のサービスエリアに置き去りにされてしまう。

他者の心に寄り添いすぎて、自分の心をすり減らしてしまいがちな二人の男女が、偶然にもサービスエリアで出会ったとき。樹海に分け入ろうとしていた晴男と、品下陵に合わせて自分の気持ちを抑え込んでいたまひるの行き先が、始めはほんの少しだけ、次第に大きく、そして優しく、鮮やかに変化していきます。

自分に自信がなかったり、自分の本当の気持ちをなかなか見つけられなかったりする二人の歩みは、いじらしいほどゆっくりで、多くの人たちに見守られながら、縮こまっていた心をほぐしていきます。晴男の同僚の主婦の田中さんや、まひるを常に気に掛けている親友の真由美といった登場人物たちのアシストも、ふんわりと柔らかい物語に心強さのスパイスをきかせていて素敵です。

物語のタイトルが、これ以上ないほど腑に落ちるとき。穏やかで清々しい気持ちに包まれます。
少し不器用で、だからこそ愛おしい人たちの歩みを、ぜひ見守ってみてはいかがでしょうか。

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