第6話 私の“人生”
私は年を経ることによって醸し出されていく“男”をどれだけ抑えるか、という方向に舵を切った。
まずは髭と身体全体に広がる毛たちを脱毛した。
この時代の男性の脱毛はとてつもなくレアなもので妻を除く周りからは良い顔をされなかった。
妻は私がしたいようにやれば良いじゃないかと理解を示してくれていた。
誰が見ても綺麗だと言えるくらいに変われて私自身は大満足だった。
脱毛に加えて肌のケアも怠らなかった。
確実に偏見でしかないが、女性よりも男性の方が肌から老けたことを感じられる気がする。
老けたことが嫌というよりも“男”っぽいと思われたくない一心で入浴後保湿クリームを塗り、マッサージすることでたるんでいない綺麗な身体を目指した。
それ以外に頭皮のケアは重点的に行った。
髪が禿げてると男っぽく見えるのは避けられない事実でそれがとてつもなく嫌だった。
どれだけ他のところで“男”を失っても最後の詰めが甘いとそれまでの努力が無駄になるような気がしてならなかった。
禿げないように色々していることは“私”を認めてくれる妻にすら気付かれないようにひっそりとやっていた。
私がこういう努力をしていると誰にも知られたくなかった。
それと意識の問題だと思うが、着替えるときは周りに人がいない環境を選んだ。
男性によく見られる光景として仕事から帰ってきたあととか風呂上がりとかに服をちゃんと着ていないという話を聞く。
私はそうはなりたくないと思っていて家の外だけではなく中にいるときも“男”を失いたいという思いが強かった。
“男”を感じられるような行動をすればするほど私の地位は下がり、恥を晒していると思えてならなかった。
私が陰でこういうことをしているのを妻は知っていながら特に何も言わずに見守ってくれているのではないかと思う。
この人はそういう風な生き方をしたいのだと理解してくれている気がする。
最近になってLGBTという言葉が世間にようやく根付いてきた。
一昔前は“男らしく”とか“女らしく”とかという言葉が世間ではよく聞く言葉であったが、それを求めないような社会へと変わってきている。
まだまだ差別的な発言や行動が残っているが、段々と私のような自分のそのままの性では生きづらい、生きたくないと考える人たちが受け入れられつつある。
私は皆が生きたいように生きられる社会が早く実現することを願いたい。
私はこれからも“男”を捨てて生きていくつもりだ。周りから何と言われても貫きたいものがある。
自分が生きたい、生きやすいと思えるようでなくては人生がつまらないものになってしまう。
折角縁あって生を受けたのだから生まれたそのままでなくとも楽しく生きられればそれで良いと思う。
私は相手の性別が何であれ対応を変えようとは思わない。
そしてそれがあるべき姿だと思う。
一人の経験者として私はそうあるべきだと後の世代に伝えていこうと思う。
雷音 ゐむる @yosukew1616
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