3 余韻
幾度も君を思い出しては心臓を締め付けられるような感覚に襲われる。
その度に息ができなくなって、それに抗い暴れ回る君への想いは、そのうち僕を突き破って僕を壊してしまうんじゃないかと怯える。
その恐怖も、いっそのこと、そうなればいいのにという願いに変わるくらい苦しくなる。思い出すたびに一時でも忘れることができていた幸せに気づく。心の叫びはバクバクと止まない轟音で全身を脈打ち、何かを訴える。
ぎゅっと目を瞑っても君の顔が、声が、想いが消えなくて、僕は時の流れから身をこぼす。
校舎の窓から聞こえる吹奏楽部の音色が止み、野球部のグラウンドへの感謝の礼がこだまする。
暗がりとは裏腹にやりきった生徒の談笑があちこちから聞こえ、僕もその心地よい波に身を攫われる。駐輪場で君を見つける。君だけがくっきりと浮かび上がり僕の視線はおろか周りの音さえも吸い取った。部員の友達と話しながらも彼氏である僕を待つ君。分かっていた。分かっていたよ。でも僕は気づかないフリをして自転車に乗った。
君の期待を殺し、あの時の僕は今の僕に心を引っぱられながら重いペダルを漕いでいた。
それを何度も繰り返し、その度に辛く、やがて放課後は逃げるように帰るようになった。今日も同じ苦しみを味わわなければいけないのかと憂鬱に駆られ自転車を跨ぐと、君は僕の前に来た。僕はそれを喜び同時に喜びを掻き消すくらい強く恥じた。あろうことか女の子に勇気を出させてしまった。そして彼女から別れを切り出される。突然の言葉に心は震え、その振動はじわりと体に響いた。目眩にふらつき倒れまいと足に力を込める。ナイフが音もなくスッと胸を突き刺したかのようで、その冷たさと強く静かな衝撃は躊躇なく僕を貫いた。入り込んだそれを消化することができず、機能しない思考を諦める。
僕は胸から垂れる想いを声にあてた。君は正しい。僕は君のために何もできないだろう。こんな僕と少しでも付き合ってくれてありがとう。目の前がぼやける前に、急いでその場を後にした。最後まで彼女を見なかった。惨めだった。何より誰かからもたらされたものではなく自分がもたらしたという実感がより一層強く惨めにさせた。
やがてぼんやり君が見えてくると君の苦しみに苦しんだ。僕は僕だけでなく誰よりも君を苦しめていた。見て見ぬフリをする僕とされる君。僕は罪なき君に罪を感じさせ続けていた。君は自分が邪魔なのではないかと苦しんでいた。だから僕を試さずにはいられなかった。苦しみに耐えきれずに零れた君の最後の言葉さえ救えなかった。
高校に進学し君はまた噂を流した。僕のことが好きだと。僕はそれさえ同じように振り払ってやっと分かった。怖かったのだ。僕の本性は僕が一番分かるから。僕はその場凌ぎでは変われるだろう。でも背伸びし続けることはできない。僕は僕の本性を否定できなかった。それが僕に不幸をもたらそうとも。僕は君を苦しみ続けることが分かっていた。僕でさえ僕を苦しめることしかできないのだからどうして君を苦しめずにいられるだろうか。別れを告げられた事実を噛み締める度に自分の行動を悔やみ、同時に心のどこかで安堵していた。
後悔に心臓を膨らませ、安堵に心臓を縮ませる。
僕はこの鳴り止まない鼓動を止める術を知らない。
でも君への想いを抱き続けることは、幸せだよ。苦しみと幸せは矛盾しないんだ。
永遠に止まない音。
僕はゆっくり意識を浮かべる。
音は止まない。
自滅賛歌 叉来丸 丸 @sakimaru0909
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