少女

扉を開けてすぐに濡れた靴下を脱ぐ。

はぁとため息をこぼす。

「ちょっと座っててね」

花模様のベットの上に置かれる。

玄関を開けたらすぐに部屋だ。

少女は慌ただしい。

ひゅわんひゅわん。

身体が動かない。

「ふー」

着替えをした少女は雰囲気が違う。

心の闇を露出していない。

少女は笑みをこぼす。

袖を捲る。

「ミルク入れてあげるわ」

少女は小さな猫柄のコップにミルクを入れる。

電子レンジにコップを入れる。

「じゃがりこ食べる?」

少女はKにじゃがりこを差し出す。

問答無用だ。

Kは口を開く。

がりっがりっ。

乾燥している。

おいしい?

無言で少女は返答を求める。

Kは首を縦に振る。

少女はぱあっと柔かに微笑む。

単純だ。

少女はちょこまかと変化する。

今までのなによりも珍しい。

Kは瞬きを繰り返す。

動きから目を離せない。

ぱーん。

ミルクが温まる。

Kは掴まれる。

ミルクとKが机の上に相対する。

「さあお飲みなさい」

ほっかほかと水蒸気がミルクを美味しく演出する。

猫ではないが、待ったほうが得策である。

少女の期待を裏切れない。

良識を実行するほどKは自身の選択に忠実ではない。

恐る恐るKはミルクを口に含める。

あついっ!

Kはのたうちまわり、跳ねてはじける。

「あちゃちゃあっためすぎね。ごめんごめん」

申し訳なさそうに少女は指を口に含める。

Kは体勢を立て直す。

「ぬるくなるまで待たせるね。その代わりにほうれん草の歌でも歌ってあげる」

少女は歌う。

何を歌っているのか皆目見当がつかないが、とても愉快で満足だ。

そうこうしているうちにミルクから水蒸気がでない。

Kはミルクを口に含める。

「どう。おいしい?」

不安の眼差しでKをみる。

もちろん。美味しいよ。

口にはできないが、Kは精一杯の手振りで伝える。

またしても少女は満足そうに微笑む。

「ふふ。よきよき。ところで貴方は不思議なカラスね。カラスよね。そうよね? 違うの? そんなわけないか。私、カラス好きよ。誰よりも冷ややかに、あったかく生きているもの。違う? そうじゃなくて」

少女は口を滑らかに動かす。

少女からオレンジの匂いがする。

Kは体の底から温かくなる。

ミルクの効果だ。

もちろんそれだけではない。

少女の不思議な魅力がKに影響している。

Kはヒトの言語を逐一理解できるわけではないが、何を伝えようとするのか感覚で承知する。

カラスとは明哲な生物だ。

少女の言葉はKの哲学を揺さぶる。

カラスは世の悪そのものだと父親の考え。

少女はカラスに好意的だ。

悪を好む純粋な魂が存在すると信じがたい。

これは現実だ。

Kはほわほわする。

はじめての感覚。

「あなた、踊っているのね。ふふ」

Kは自然と踊りだす。

Kの踊りは少女を高揚する。

互いに互いを認める。

存在しない行為を身体に含みKは変化する。

生命の意味。

嗚呼。

生きている。

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K 容原静 @katachi0

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