匿名キャラお見合い企画 自作短編解説(3)052~088編
【No.052】雪山の七人【読者への挑戦あり】【性描写あり】
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折角探偵がいるのでミステリを一作書きたいなと思い、タイトルから雰囲気から「読者への挑戦」まで徹底してクローズドサークルのパロディにしました。この短編単独で本格ミステリ(作中の手がかりから読者がフェアに真相に辿り着ける)とは呼べないでしょうが、キャラクターリストやこれまでの掲載作品を見ている前提でなら一応謎解きとして成立はしているはずなので、「ミステリごっこ」くらいは名乗れるかと思います。
キャラ配置については、この時点でまだ出演作のなかった松蛇氏、勅使河原先生、アルルちゃん、そして自作キャラの天城君に出番を与えたいという思いがあり、天城君の相手として同じく未登場だった綾ちゃんをピックアップしました。怪異と霊が絡むので椿樹君にも出演してもらいつつ、自然にこの場にいる理由付けのためにアルルちゃんとはカップル未満のような設定に。
当初は松蛇氏と雷香さんのW探偵体制も考えていましたが、まあ探偵役2人は要らないか&キャラ配置的にどうしても下ネタが絡んでくるので、こういうハードな仕事は松蛇氏に担ってもらい、雷香さんは「同業者」として彼との関係性を匂わせる程度にしました。たぶん彼女は萌歌Pの握手会で知り合ったシックル君から連れのノゾミちゃんの正体を聞いてたんだと思います。
ちなみに、こころさんがメイド服なのは、044『お嬢様と、もう一度』との繋がりをミスリードにしつつ、「未来君ってそういうのが好きなの?」という弄りをラストに入れようとしていた名残りです。肝心の謎解きは難易度高めでしたが、リストを見て正解して下さった方もいたようで、頑張った甲斐がありました。
【No.057】グレゴリオ暦2033年10月11日付 榊 雪彦 の死亡予定に関する対応報告書【暴力描写あり】
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判決文学好きが高じて、一度はやっておきたかった「死神の報告書」。
シックル君の解説で述べたように、こんなキャラを作っておきながら、024『死神の推しの子』を書いた時点では伊坂幸太郎先生の『死神の精度』を未読でした。勿論概要は知っていましたが、流石にそれはどうなのということで、取り急ぎ拝読した上で「死神の仕事」観をアップデートした上で本作に取り組みました。「死亡可」などのフレーズが出てくるのはその影響です。
内容は他の方も取り組まれていた「みなちゃん救済計画」の一つですが、時系列を少し未来にすることで変化を出しました。雪彦君の設定に「地下アイドルの推し活」とあったことから、17~18歳くらいになったみなちゃんがデート業時代のノウハウを活かして(あるいはその過去を乗り越えるために)アイドルとして一歩踏み出しているという設定が自然に決まり、あとは年齢と時系列を調整して。
彼女の芸名と戸籍名は、020『シルバー&タイガー+リトルクイーン!』や026『この指とまれ』のような出来事があったかもしれないという想定で、カドザキ氏(この人自身戸籍を作れるかは置いておいて)と雷香さんの養子になりつつ、お世話になった佐伯氏の名字も芸名に借りてたりするのかな、と読む人が想像してくれたらいいなと……。感想コメントで具体的に触れてくれる方がいるかと思ったのですが、誰も言わないので自分で説明しました。つらたん。グループ名の「l'amore di tutti」はイタリア語で「みんなの愛」くらいの意味です。
勅使河原先生の「特定見計らいリスト」は、板野がよくやる「世界観に奥行きを出すために特に説明もなく専門用語をぶっこむやつ」以上の意味はありませんが、たぶん、上位存在と接触して能力を授けられたりしている人間について、記憶や能力を取り上げないかわりに有事の際には協力させる約束を取り付けているという感じかと思います。
ちなみに、報告書の氏名表記などに使っているキリル文字(ロシア語アルファベット)は、板野がたまに作中の小道具として使うやつで、「読めないけど何かちゃんとしたルールに従って文字が書いてあるんだろうな感」を出すのに丁度バランスがいいんですよね。英語と同じ文字、似た形をしているのに読みが違う文字、英語にない文字が程よく混在していて。アラビア語くらい離れてると読めな過ぎる上にその土地のイメージが入ってしまうし、ドイツ語とかだと創作者は皆知ってるので、ロシア語くらいの距離が丁度いいんです。なお、冒頭の報告者名のところに書いてある「РТ-2ПМ Тополь」は、NATO側から「シックル」と呼称されたロシアのミサイルの名前ですが、これは雰囲気付けのために読者が読めないであろう文字を適当に置いただけです。
【No.060】あるアイドルの穏やかな死
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読者の方のXポストで「シックル君が死神の仕事を遂行するのは老衰だけ?」とあり、流石にそこまでではないと思うのですが、ともあれ、彼がちゃんと人の死を看取るところを一度は書いておかないと……という発想から自然に生まれた話。
萌歌ちゃんとセバスチャンの関係性をもっと書きたい思いもありつつ、話の都合で彼を早死にさせてしまったのは申し訳なくもあったのですが、結果的に作成者の方にも喜んでもらえたので安心しました。セバスチャンのキャラからすると、萌歌ちゃんを何かの危機から庇って死亡の方がそれっぽいかもしれませんが、024とも057とも話が被るので、やむなく「病気か何か」で命を落としてもらいました。漫画『女帝』で主人公の夫となった黒服が子供だけを残して病死してしまう展開が一部念頭にありましたが、結婚して子供までいると話の方向性が違ってくるので、敢えて未婚のまま、世間の誰にもセバスチャンとの関係を明かすことなく、ただ彼の思いだけを受け継ぐ……という形にしています。板野は元アイドルが結婚して母親になる話も普通に書きますが、萌歌ちゃんの場合は参加者の皆さんの共有物なので、アイドルとしてのピュアネスみたいなものを残しておきたかったというのもあります。
作品舞台については、お見合いサバイバルに続いて「現代日本を起点に~」というルールの範囲を最大限に拡張したく、現代の卒業コンサートの回想から「少しばかりの時間が」と言いながら一気に未来まで飛ばす禁じ手を発動しました。月面都市や軌道エレベーターの描写に加えて(軌道エレベーターの内部が旅客機の客室に近いのは、小川一水『妙なる技の乙女たち』からの刷り込みですが、これってどのくらい一般的なイメージなんでしょう?)、無重力バッグやら浮遊するパフェ(多分グラスに磁気浮遊装置か何かが仕込んである)やらの小道具でSF的ハッタリを効かせまくっています。
ここでも無藤女史のキャラが大変便利でした。シックルを坊や呼ばわりできるのは彼女くらいですからね。なお、作中で言及しているように、「初代」とか「三代目」というのは、本人が少しずつ容姿を変えながら娘や孫という設定で活動し続けている想定です。「実は本人?」みたいな都市伝説があるのかもしれません。
024から80年後の萌歌ちゃんを看取るラストシーンは、勿論『死神の精度』の影響もありますが、高野和明『6時間後に君は死ぬ』からも一部イメージを引用しています(未来を予見できる青年が、6時間後に迫るヒロインの死を回避し、最後に60年後の彼女の姿を垣間見るシーン)。ラスト2行は流石にあざとすぎて恥ずかしくもあるのですが、泣いたと言ってくれた方もいて作者冥利に尽きます。
【No.064】届け(ない)、この叫び
https://kakuyomu.jp/works/16818093085133939965/episodes/16818093086582556199
椿樹君と野乃花さんのCPが盛り上がりを見せる中、雪山で彼とアルルを組ませた責任(?)みたいなものを果たそうと思って、しっかり話を繋げつつアルルの想いに決着を付けさせた一作。当初、052『雪山の七人』はクロスオーバー的には孤立していて(←雪山だけに)、魔法少女バースや応援団バースとは繋がらないと思っていた方が多かったと思うのですが、せっかくのお祭りなのでこれも繋げちゃうかーと。050『恋はチョコのように、魔法のように』が横恋慕物で受けていたので、アルルちゃんにもそういう甘酸っぱい失恋が似合うかなと思ってこんな話になりました。
あと、シグマの妹ちゃんに名前を付けるとしたらやっぱり私の役目だと思って。白河兄妹のハーフ属性がここまであまり使われていなかったので、結婚年齢云々のシーンではラムダちゃんと名威さんで英語で喋るのも考えましたが、面白さに寄与しないのでカット。かわりに入れた昭一の「
大学生カップルについては、雪山では綾ちゃんは神崎こころに怒ってばっかりだし、未来君は倒れてただけだしで、あまりキャラクターとしての掘り下げが出来ていなかったので、本作では綾ちゃんの世話焼きお姉さん属性を存分に発揮してもらいました。未来君はなんかアッシー君みたいな出方になっちゃいましたが、綾ちゃんに引っ張られながらも平和な交際を楽しんでいる姿は描けたので良かったかと思います。
ちなみに、字数次第では最後まで椿樹君本人が出てこない選択肢もありましたが、どうにか余裕を残せたのでちゃんと登場させられました。アルルちゃんの身を案じながらも完全にお子様としか見ていない台詞は切なさが出ていてお気に入りですが、まさか後の089『混沌にして純粋なる告白』で椿樹×アルル時空まで回収して頂けるとは……。このCPの方が好きと言ってくれる方もいて、マルチバースならではの楽しみ方でしたね。
【No.071】この次はお仕事抜きで
https://kakuyomu.jp/works/16818093085133939965/episodes/16818093086628147916
最終日まで起用のなかった春乃さんを幸せにしたくて、同じくメインCPがなかった土谷氏と自然に組み合わさった一作。まさか最終的に春乃さんの主演作が5作にも及ぶとは思いませんでしたが。
ITコンサルタントという職種名は実はすごくふわっとしていて、多分作成者さんはBtoBで大企業相手にバリバリやってる姿を想定していたかと思うのですが、一番身近なのはこうした小規模クライアント向けのHP作りとかSNS運用代行、SEO施策とかだと思うんですよね。そうした会社の「コンサルタント」とは実質的には営業職のことで、足で稼いでナンボの仕事ですが、彼女は部下を持つ立場とあったので、そうしたコンサル営業を経て今はそのマネージャーに収まっている出世頭と想像しました。
ともあれ、今回の板野の作品の中では最も普通というか、地に足付いた現実の人間同士(魔法学校の夢を見たりはするけど)の話になりましたが、その空気をこそ気に入って下さる方もいて良かったです。どうですか、まさかCPサバイバルとこれが同じ作者とは思わないでしょ?
字数が許せば土谷氏の「がっついた」過去に少し触れてもよかったのですが、サブキャラを出してまで字数を伸ばすような作品でもないので、それこそガツガツせずに敢えてこの程度の情報にとどめました。結果的に、深い話は「この次」以降という期待感にも繋がって良かったかと思います。
【No.079】勧誘作戦・アリスSOS!
https://kakuyomu.jp/works/16818093085133939965/episodes/16818093086657696588
匿名トークの「アリスちゃんも魔法少女に」のアイデアから生まれた一作。同じく匿名トークで書いたように、せっかく萌歌Pのプロデュースユニットに自称神の子のエレたんを出したことだし、ミヤネさんも魔法少女バースに合流したので、そのルートで萌歌Pをスカウト役としてスカウトする流れがあったら面白いなと。
また、最後に一つコミカルでワチャワチャした作品を書いておきたいな、というのと、萌歌×セバスチャンの最後の出番が060のままではやっぱり切ないので、現在の時系列で楽しく恋しているところをもう一度書いてあげたい思いもありました。さらに、やはり企画後半になるにつれて、序盤から居たキャラはあまりメインCPに起用されなくなってきたので、ここらでもう一度序盤のキャラに光を当てるのもいいかなと思って。ちなみにブレードの偽名が「ギャレイド」なのは、仮面ライダーブレイド繋がりでギャレンの名前を混ぜたものです。
正規〆切の最終日、まずお昼の内に071を書き上げて、それから外出の予定があったので、まさかもう一作間に合う筈もなく「延長枠で出します」と予告していたのですが、なんか出先でもスマホで書いてたら奇跡的に間に合ってしまいました。軽いノリの作品だからこそ出来たことですが。アリスちゃんの魔法少女化は、後に090『不思議な世界の普通な僕』などでも拾って頂けて嬉しかったです。
【No.088】夜空に浮かぶ美しい星から
https://kakuyomu.jp/works/16818093085133939965/episodes/16818093086888708856
スケジュール的に延長枠の作品は出せても1作だったので、私として・企画としてやり残したことはないかと考えた時に、ユキトラ氏の「未来から来た」設定をまだ拾っている方がいないなと。作成者さん自ら書いているところだったらどうしようとビクつきながらも、折角なので思いっきりディストピアSFではっちゃけることにしました。060の月面都市の描写が2104年くらいのことで、ユキトラ氏の身分証が2185年とあるので、「あれからさらに80年くらい先の未来」というイメージでちょうどいいかなと。「萌歌Pが平和に息を引き取ってからたった80年でこんなディストピアになるもんかい?」というツッコミに対する逃げ道として、「新暦」表記にして実はもっとずっと未来かもしれないという言い訳を用意しましたが、今設定を見直すと「西暦2185年」って書いてありますね……。まあそれはともかく。
「人類戦士」は勿論『火の鳥』未来編から頂いたワードですが、ざっくり「あのくらいの時代に書かれたSF」感が出ればいいなと。だから「人工知能」でも「AI」でもなく「電子頭脳」なんですね。いいですよね「電子頭脳」、この単語が出てくるだけであの時代のSFっぽくなりますよ。でも、そのSF書きゆえのバランス感覚として、科学力によるタイムワープまで出てくるのは違うなと思ったので、「時空門の創造」能力を持つらしいナイアル……無藤女史にここでも出張ってもらいました。何でもやってくれるなこの神。実は宇美さんのキャラクター設定については、「王様」がタコに似ているという記述から何となくクトゥルフを連想はしたものの、そこまでがっつりクトゥルフ絡みのキャラとは思っていなかったので、後に作成者の方の解説を読んでちょっとびっくりしたやつです。「作者の人(←宇美さんと無藤女史を絡ませた板野のこと)そこまで考えてないと思うよ」案件ですね。
なお、終盤まで読者に舞台を明かさず、「夜空のあの星」を月のことと思わせておきたかったので、ミスリード要員として転生輝夜さんを出しました。現代の彼女が「月から来たと自称している」ことを読者は皆知っているので、それを逆手に取って、実は2185年の輝夜さんは「21世紀の地球に住んでいた前世」を語っていたのだという仕掛けです。エコー君の登場シーンあたりで「あれ?」と思わせ、最後に「ああっ!」となってくれたらいいなと。大丈夫? ちゃんと皆さん舞台が地球と思って読んでくれてました?
死に際の「輝夜が参ります……」は私の性癖です。最後に可愛く(?)出来てよかった。なぜ名威さんとの物理写真を持っていたかといえば、まだ平和だった時代に前世の弱竹輝夜のインタビュー写真が何らかの経緯で月面都市に持ち込まれており、それを月面世界に転生した輝夜さんが懐かしんで回収したのでしょう。
ところで、実は最初はユキトラ氏側の視点で話を考えていたのですが、輝夜さんを先に出すとどうしても話がブレてしまい、どうしようかと悩んでいたところで「宇美さん側の視点にすれば?」と閃いて、そこからは全てが上手く繋がったという経緯があります。こういうことがあるから創作は楽しいですね。当初はキャラクター性を一貫させるため、ユキトラ氏は未来でも丁寧口調にしていましたが、輝夜さんも宇美さんも皆同じような口調で、並べると誰の台詞か分かりづらくなるので、記憶喪失前は口調も違っていたことにしました。それでも気質の優しさは出せたので却って良かったかと思います。
最後に、一人で勝手に悲惨な未来を描いてしまいましたが、このお見合いワールドの未来があのディストピアに繋がることは必ずしも確定していないと思います。宇宙人や能力者や上位存在が21世紀の日本に集まって楽しく恋したりバトルしたりしているので、たぶん皆が頑張って平和な未来に変えてくれるでしょう。
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