【No.079】勧誘作戦・アリスSOS!

【メインCP:男5. ブレード・グランドゥール、女2. 三嶋みしま アリス】

【サブキャラクター:男9. 加賀かが 可惜あたら、女3. 銀音シロガネ 雷香ライカ、女21. 紅谷ベニヤ 萌歌モカ、女25. 天下あました ミヤネ/オルタントゥ・ダスト】

----------



 自身がプロデュースするユニットの一員である天上あまがみエレアを通じて、紅谷べにや萌歌もかが自称使と面会を果たしたのは、街がハロウィン一色に染まりだす十月半ばのことであった。


「という訳で、君には魔法少女候補のスカウト役として力を貸してほしいんだ」

「えーと……。私もそういう話は嫌いじゃないけど、どこまでがマジのやつ?」

「この目が冗談を言っているように見える?」


 モデル顔負けの長身から、萌歌をまっすぐ見下ろしてくる青い瞳。

 普段の萌歌なら何を差し置いても彼女を勧誘しにかかるところだが、こっちが勧誘役として勧誘されるという混沌カオスを前に、一旦その回路はフリーズしてしまっていた。

 その天使の隣から、並ぶと子供にしか見えないドジっ子担当のエレアがぴょこっと口を挟んでくる。


「萌歌P、ミヤネちゃんはウソ言うような子じゃないですぅ。天界あっちじゃ天帝お父様の覚えもめでたくて、天国最終層の守護天使まで任されてた子ですよぉ? ボクよりずっと頼りになりそうでしょ?」

「へぇー。じゃ、いつか私が死ぬ日が来たらヨロシクね」

「心配しなくても君は当分死なないよ。僕の勘だけど」


 マジでどこまでマジか分からない天下あましたミヤネの発言に、とりあえず、天国関係者はボクっ娘がルールなのか?と納得しておく。


「まあいいか、楽しそうだし乗ってあげる。それで、どこの誰をアイドルにスカウトしたらいいのっ?」

「アイドルじゃない、魔法少女だよ」

「ちっちっ、そこはそれ。この萌歌Pが関わるんだよ? 魔法少女と同時にアイドルにもしちゃうに決まってるじゃない」

「……まあ、じゃあそれは好きにしてくれていいけど。ターゲットはこの子だよ」


 業務用のラインにミヤネから送られたプロフィールは、三嶋みしまアリス、十四歳。小柄で幼い顔立ちに上品な銀髪が特徴の、育ちの良さを感じさせる少女だった。


「可愛い子じゃんっ。物語モノガタールズの新メンバーにいいかもね」

「わぁい、仲間が増えるぅ!」

「彼女は幼くして両親を亡くしている。そういう人間は魔力に目覚めやすい傾向がある」


 それにロマンチストで魔法少女にはうってつけだ――と続けるミヤネに、萌歌はふんふんと頷いて、それからふと思い出して彼女の目を見上げた。


「ちなみに、ミヤネさん、あなたはアイドルやる気ない? 白皙はくせき麗人れいじん系で売り出せば男女問わず受けると思うよっ?」

「遠慮しておくよ。アイドルは恋愛NGだろう?」


 クールな表情を崩して、ふっとはにかむミヤネ。


「僕は今、人間と恋をしてるからさ」


 人間以外の何と恋するんだ、キャラ作り決まってるなぁ、と感心する萌歌だった。



 ◆ ◆ ◆



「そんなわけで、三嶋アリス嬢の行動パターンなどを調べましたところ……」

「どうでもいいけど、その言い方、仕事じゃなかったらストーカーとしか思えないから気をつけてね」


 軽い相槌のつもりで萌歌が突っ込むと、マネージャー兼ボディガード兼お世話係兼……実は密かな想い人でもあったりなかったりする執事のセバスチャンこと加賀かが可惜あたらは、あっと気付いたように口元を押さえた。


わたくしとしたことが。しかしお嬢様、ご安心下さい。私がお嬢様以外の御婦人に特段の興味を示すことなどございませんので」

「私以外のって……」


 こういうことを真顔で言われるたび、萌歌がどきんと跳ねる心を必死に押さえているのを、彼は気付いているのだろうか。


「アリス嬢は本がお好きで、毎週月曜には街の図書館に通うのを習慣にしておられます。そちらでお声掛けするのが宜しいかと」


 そんな経緯を経て、さっそく図書館にやってくる標的ターゲットを入口で待ち構え、接触を果たした萌歌であった。


「はじめまして、三嶋アリスちゃんっ! 私、アイドルプロデューサーの紅谷萌歌!」

「……はい、はじめまして」

「いきなりだけど、私と契約して魔法少女とアイドルにならない!?」


 あどけなさを残した彼女の瞳が、キョトンと見開かれる。


「魔法少女とアイドル。どちらかではなくて……?」

「うん、両方やった方が楽しいでしょ?」

「私、物語は好きですけど……ごめんなさい」

「あっ……」


 萌歌の声掛けをあっさりスルーして、アリスは足早に図書館にGO!してしまった。


「むぅ、この私が一分も引き留められないなんて……」


 物陰から見守っていた可惜が、音もなく出てきて言ってくる。


「まあ、それはそうでございましょう。いきなり魔法少女と言って勧誘しても、大抵の方は怪訝な顔をされるだけかと」

「そう思ってたなら事前に止めてくれてもいいじゃない」

「お嬢様は止めて聞く方ではございませんから。あと、せめて話しかけるなら図書館から出てこられた後の方が宜しかったかと」

「そう思ってたなら事前に」

「止めて聞く方ではございませんから」


 飄々とした空気を崩さない彼に、萌歌は頬を膨らませて問いただす。


「そんなに言うならセバスチャン、あなたには妙案があるって言うの?」

「はい、勿論」

「あるんだ……」

「名付けて『何事も形から作戦』でございます」

「あなたが言うと説得力がすごいわね」


 それで?と尋ねる萌歌の前で、彼はにこやかに笑ってスマホを手にした。


「実はもう、ブレード氏にお出まし頂く手筈が整っております」

「ブレードさんって、握手会に来てくれてるコスプレの? なんで連絡先知ってるの?」

「天下様からグループラインにお誘い頂きまして。ブレード氏、魔法訓練校で剣技教官をされているそうですよ」

「なんであなただけ誘われてるのよ」


 恋人の美人探偵に連れられて握手会に来てくれる、金髪碧眼の騎士服姿を思い返し、あの人も天使やら魔法少女やらのお仲間だったかーと萌歌は納得する。

 キャラ作りには余念のない人物ばかり。自称執事とはさぞ気も合うだろう。


「今更だけど、現役アイドルの私がキャラ負けてない?」

「お嬢様にはお嬢様だけの魅力がございますから」


 そんなわけで、アリスが図書館から出てくるのを見計らっての、スカウト作戦第二弾の発動である。


「我が名はレイド、黒の騎士なり。アリスと言ったか」


 会いに行けるアイドルならぬ、呼べば来る騎士とでも言うべきフットワークの軽さでやって来たブレードは、図書館から出てきたアリスに何やら悪役じみた演技で迫るのだった。


「どうして私の名前を……」

「貴君の持つ魔法の資質に引き付けられてな。恨みはないが、貴君を生かしておけばいずれ我々を脅かす敵となる。ゆえに、力に目覚める前にここで消えてもらう!」


 剣の柄に手をかけるブレード。きゃっ、とアリスの黄色い声が響くのを見計らって、萌歌は飛び出した。


「待ちなさいっ、その子に危害は加えさせないわ! 魔法アイドル・モカピー参上!」


 萌歌の格好は勿論、わざわざ可惜が事務所から取ってきてくれたフリフリのステージ衣装だ。


「邪魔をするか、魔法アイドル!」

「邪魔をするわ! ヴィーナススマイル、ラブリーテンペスト!」


 適当な技名を叫んで両手を突き出すと、物陰に隠れた可惜のドローン操作で赤とピンクの花弁が舞い踊った。


「ぬうっ、おのれ魔法アイドル! 覚えていろ!」


 お決まりの悪役ムーブで退散しかけるブレード、これでアリスの興味は魔法アイドルに釘付けにっ――と萌歌が確信を抱いた、その矢先、


「お待ちください、ギャレイド様っ!」


 アリスの口から発せられた予想外の叫びに、刹那、一同の時間が硬直した。

 はっ?と振り向いたブレードに、


「私、あなたに心惹かれてしまいました」


 両手を胸の前で組み、ほんのり頬を染めて言い募るアリス。


「え!?」


 目を丸くするアイドルと執事の眼前で、少女はたたっと騎士の前に駆け寄って、


「私、ずっと求めていたんです。あなたのような王子様との出会いを」

「いや、俺は王族では」

「どうか、私を連れて行ってください」


 計画と違うじゃん、と萌歌は物陰の可惜を睨むが、彼は「ほぉー」と愉快そうに見守るばかり。


「いや、俺には、心に決めた相手がだな……」


 タジタジになりかけるブレードだったが、そこはそれ、騎士の本分というか今回の作戦の本分を思い出したようで、


「ふん。俺と再びまみえたくば、魔法少女となって追ってくるがいい! ではさらば!」


 そんな台詞を残して、ばさっとマントを翻して駆けていった。

 あっ……とその場に立ち尽くし、彼の去っていった先をうるうるした瞳でいつまでも眺めているアリス。


「……あのー、アリスちゃん?」


 萌歌が声を掛けると、彼女はうっとりした顔で振り向いた。


「私、魔法少女になります」


 意外と言うか案の定というか、少女が己の運命を即決した瞬間だった。


「アイドルは!?」

「それは……。だって私、歌ったり踊ったりできませんし……」

「そんなの私が教えるわよっ」

「どうかお構いなく。だって私、あの方に恋をしてしまったんですもの」


 少し前に似たような台詞を聞いた気がする。アイドル業はやっぱりその点がネックになるなあ、いっそウチでも恋愛公言OKのグループでも立ち上げようかな……と萌歌がプロデューサー脳を回し始めたところで、アリスは「それに」と微笑んでくる。


「先程のが私を引き込むための茶番なのは、私にだってわかりますし……」

「うぇっ、バレてたの!?」

「でも私、物語は好きなんです」


 身長151センチの萌歌よりさらに華奢な体躯から、愛のオーラを立ち上らせるように。


「あなたの周囲にあの方がいること自体は本当でしょう?」

「まあ、そうね」

「でしたら私、あなたのそばで魔法少女を目指します。敵でもなんでもいい、あの方とまた出会えるなら、きっと素敵な物語が始まる気がしますから」


 にこっと彼女が笑った瞬間、その肩の後ろあたりでポンっと小さく花が咲いて、風に溶けて消えるのを萌歌は見たような気がした。

 手品? 錯覚? それともまさか……ね。



「じゃあ、また正式に連絡するからっ。保護者の方にお話通しておいてね」

「はいっ。お待ちしております」


 るんるんと弾む足取りでそ帰路につくアリスを見送り、萌歌は可惜と顔を見合わせる。


「なーんか、期待してたシナリオと違うなあ。『私もお姉さんみたいな魔法アイドルになりますっ!』ってなるはずじゃなかったの?」

わたくしもあの展開は想像の斜め上でしたが……。まあ、恋はいつだって予想外、ではないですか」


 自分を見下ろす彼の穏やかな笑みにドキっとしながら、「……ホントにね」とせめてもの匂わせのようなことを言ってみる萌歌。

 萌歌の秘めた気持ちを知ってか知らずか、可惜はマイペースに「ブレード氏も両手に花ですか」なんて言っている。


「えー、難しいでしょ、ブレードさんは雷香らいかさん一筋って感じじゃない。うーん、なんか、今になってすごく罪悪感が……。失恋するって分かってて恋の切っ掛けを与えちゃったの、私って悪徳プロデューサーかな?」

「お嬢様が狙ってされた訳ではございませんし……。まあ良いではないですか、悲恋に終わるとしても。誰かに恋したという事実自体が彼女に力を与えてくれます」

「……あなたって、よく謎に達観したこと言うけど」


 肝心の自分に向けられる想いには気付かないのね、なんて言う勇気は、まだ今の萌歌にはなかった。


「まあいいや。アリスちゃんには悪いけど、せいぜい作詞のネタにでもしちゃうわ」

「流石にしたたかですね、お嬢様」


 少女の恋と戦いの前途を思い、萌歌は微笑んだ。



----------

【本文の文字数:4,500字】

【板野作品からの登場キャラクター】

・「ミケ猫さんを超えてゆけ杯」参加作『天帝の顔もN度まで ―ドジっ子アイドル爆誕秘話―』より、エレア

https://kakuyomu.jp/works/16816700428555431158/episodes/16818093085517306931

★この作品が気に入った方は、応援、コメントで投票をお願いします!

★特に気に入った作品はコメントで「金賞」「銀賞」「銅賞」に推薦することができます(推薦は何作でも無制限に行えます)。

★各種読者賞の推薦も同じく受付中です。今回は「キュンとした賞」を含む常設の読者賞に加えて、「末永く爆発しろ賞」「さっさとくっつけ賞」「ギャップ萌え賞」「オトナの恋愛賞」を特設しております。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る