【メインCP：男33. 榊（さかき）雪彦（ゆきひこ）、女14. 流山（ながれやま）みな】

【サブキャラクター：男18. シックル、男34. 勅使河原（テシガワラ）留綺（ルキ）】

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　対　応　報　告　書

グレゴリオ暦2033年10月11日

東アジア支局日本列島担当

РТ-2ПМ Тополь シックル

【対象者】

氏名：Сакаки Юкихико 榊雪彦

性別：男性

出身：日本国神奈川県横浜市

出生：グレゴリオ暦2015年12月25日

年齢：18歳

【死の発生すべきとされた時間】

グレゴリオ暦2033年10月11日 18時25分

【死の発生すべきとされた場所】

35°39'31.9"И 139°41'44.3"В

日本国東京都渋谷区道玄坂8-41-2

ライブハウス「E-BOOST」内ライブステージ壇上

【対応】

死期保留（例外事由1-33）

【詳細】

　対象者榊雪彦は本件当時、日本国神奈川県横浜市の実家（家族構成：父、母、兄）に居住し、同国東京都千代田区に所在する大学に通学する傍ら、同渋谷区に所在する配送会社にてアルバイト業務に従事していたものであり、未婚で子はなく、婚約者等の特筆すべき交際相手もなかった。彼の生活形態は同国の男性大学生における典型事例の一類型といえ、殺人その他の犯罪歴もなく、同国における一般的な社会秩序を遵守し生活する模範的な市民であったといえる。

　本件に関連する事項として、榊雪彦はグレゴリオ暦2033年5月頃より所謂「地下アイドル」（日本国における芸能文化の一形態であり、主に年齢10代前半から20代後半程度の女性数名程からなる集団をもって観客に歌唱や舞踊等の技芸を観賞させ、専ら男性観客の性的ないし疑似恋愛的感情を喚起させることにより物品販売や写真撮影等の有償奉仕に誘導し対価を得ることを旨とするもの）に傾倒し、アルバイト業務で得た金銭の大半をそのファン活動に浪費していたものであり、本件当日も前掲ライブハウスで開催される同種の興行の観劇に赴いていた。

　当該興行の出演者たる地下アイドル「l'amore di tutti」は、16歳から18歳の日本国人女性4名をもってグレゴリオ暦2033年4月に結成されたグループであり、榊雪彦の「推しメン」（芸能人等に対する呼称に使用される社会方言の一種であり、複数人からなる集団のうち当人が最も気に入っている人物を指す）は、Саеки Раина（冴木雷奈）の芸名を称する女性（戸籍名：Кадозаки Мина 角崎みな、グレゴリオ暦2015年10月11日生、当時18歳）であった。

　榊雪彦は幼稚園に通園していたグレゴリオ暦2020年10月頃、当該女性を同園の園児数名による窃盗等の加害行為から助けた経験があり、以来12年6ヶ月にわたり当該女性の存在を意識することなく生活していたものであるが、「l'amore di tutti」の結成後、同グループのソーシャル・ネットワーキング・サービス上の動画を視聴した際に、冴木雷奈が角崎みなと同一人物である可能性に思い至り、当該人物への興味を惹起されたものである。しかし、彼はグレゴリオ暦2033年6月頃より「l'amore di tutti」の興行に通い始め、握手会や写真撮影等の有償接触サービスを通じて当該人物と複数回の会話を交わすものの、彼女の素性を尋ねたり、自身との過去の関係性に言及したりといった積極的求愛行動に及ぶことはなく、あくまでその接触は「l'amore di tutti」の提供する有償サービスの範疇に留まっていた（こうした事例はアイドルのファン活動を行う人間において珍しくなく、彼らの思考概念において「推しとの適切な距離を保つ」などと表現される）。

　本件当日のグレゴリオ暦2033年10月11日は、冴木雷奈こと角崎みなの18歳の誕生日であり、前述興行では出し物の一環として彼女の誕生祝いが催されていた。榊雪彦がステージ近傍の客席で当該興行を観劇していたところ、同日18時10分頃、観客を装い客席に潜入していたСакано Такуро（坂野宅郎、グレゴリオ暦1993年1月10日生、当時40歳）が突如客席から壇上に上がり、隠し持っていたナイフを使用して冴木雷奈こと角崎みなを傷害ないし殺害しようと試みた。当該状況を目撃した榊雪彦が、同じく壇上に上がり、坂野宅郎の加害行為を制止しようとしたところ、坂野宅郎の保持するナイフが榊雪彦の腹部に刺さり、多量の血液が噴出した。坂野宅郎は直後に当該ライブハウスの警備員に取り押さえられ、冴木雷奈こと角崎みなへの加害は防がれたものの、榊雪彦はその場に昏倒した。直ちに電話で救急車が要請されるとともに、周囲の観客やスタッフ等が彼の救命を試みるものの、治療が間に合う前に出血が致死量に達することは自明とみられた。

　恋愛対象の一種である「推しメン」を自らの挺身によって危害から守り、その結果として死亡することは、人間の思考概念に照らせば所謂英雄的行為の典型事例であり、榊雪彦は当該結果に一定の満足感を覚えるものと考えられた。

　以上の状況を踏まえ、当職が死亡可の判断を下そうとしたとき、冴木雷奈こと角崎みなが彼に駆け寄り、自身が彼の氏名と過去の出来事を記憶していた旨、彼の生存を望む旨を発言した。失神中の榊雪彦の意識にその言葉は届かなかったとみられるが、落涙と共に発せられた彼女の言葉は真に迫るものであり、本心からの発言と考えられた。

　ここで冴木雷奈こと角崎みなの経歴について補足すると、彼女は小学校に通学していたグレゴリオ暦2023年12月頃より、片親である実父の強制により、複数の男性客を相手に疑似恋愛行為の有償サービスに従事させられていた経験があり（当該父親の行為は日本国の現行法律に照らして多分に違法性が認められるものである）、前述加害行為を試みた坂野宅郎も当該サービスの顧客の一人であった。グレゴリオ暦2025年8月頃、角崎みなは裁判所の審判により実父と隔離され、以降は養親の元で生育されるものの、当該サービスへの従事経験はその後も彼女の心理に強い負の影響を残していた。その後、17歳となった彼女は養親の友人である芸能プロデューサーの助力で前述アイドル活動を開始したのであるが、その動機は、健全な芸能活動を通じて善良なファン達と健全な関係性を築き、実父の前述行為で植え付けられた心的外傷を克服したいというものであった。

　然るに、冴木雷奈こと角崎みなにとっての悲痛な過去の象徴ともいえる坂野宅郎の加害行為に起因して榊雪彦が死亡することは、彼女の心理に再び強い心的外傷を与え、成功裏に進行しつつあった彼女の社会復帰及びその後の人生に多大な負の影響を与えることが想定された。付言すれば、アイドルは多数の人間に活力や生存理由を与え、人間社会全体に正の影響をもたらしうる職業であり、冴木雷奈こと角崎みなが当該業務に従事しなくなることは、彼女を応援する人間達各々の人生に少なからぬ負の影響を及ぼすと考えられた。

　上記事情を鑑み、当該状況を統合的に俯瞰したところ、ここで榊雪彦を延命させることは、冴木雷奈こと角崎みなの今後の人生及び芸能活動に多大な正の影響をもたらし、ひいては人間界全体の利益にも資すると判断した。

　そこで、当職が当該ライブハウスを離れ、周囲で榊雪彦を救命しうる人物を探索したところ、近傍のパチンコ遊技場において、医業従事者である特定見計らい人物のТешигаwара Руки（勅使河原留綺、特定見計らいリスト241006-34参照）がパチンコ遊技に興じているところを発見したため、特定見計らい人物接触規則B条5項に基づき助力を要請し、当該ライブハウスにおいて榊雪彦の緊急手術に従事させた。勅使河原留綺が外科手術により損傷臓器等を修復し、冴木雷奈こと角崎みなら周囲の人物の血液を使用した緊急輸血を行ったことで、榊雪彦は一命を取り留め、以て当該案件は死期保留にて対応を終結した。

　尚、人間の一般的な社会通念に照らせば、上記事案を経て榊雪彦と冴木雷奈こと角崎みなは恋愛関係に至る蓋然性が高いといえるが、アイドル業に従事する者はその活動期間中において特定の異性との交遊をファンやマスメディア等から歓迎されない傾向にあり、両名が恋愛関係を望むのであれば、当該障壁への対処が最大の課題となると考えられる。（以上）

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【本文の文字数：3,300字】

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