第4話 MILLION ONDEMAND



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『秋葉原エイトミリオンで【永遠サーキュレーション】でした。皆さん、わたしの歌を聴いてくれて、ありがとうございます!』


「――いかがですか、皆様! 世界初のAGI汎用人工知能搭載型歌唱システム、電脳サイバー歌姫ディーヴァ美音ミオンのデモンストレーションをご覧頂きました。現在、当社では、2030年のリリースに向け、システムの最終調整に入っております。リリースの暁には、当社の電脳サイバー歌姫ディーヴァが世界の音楽シーンを席巻します。人々は、録音された音声を聴くのではなく、聴きたいときに聴きたい歌を聴きたい調子で、自分専用の歌姫に歌ってもらえるようになるのです!」

「質問よろしいでしょうか。……合成音声を用いた歌唱ソフトウェアはこれまでにも例があると思うのですが、御社の製品が既存と比べて異なる部分はどこでしょう」

「素晴らしい質問をありがとうございます。美音ミオンちゃん、皆様に説明して差し上げて」


『はーい、マスター。お集まりの皆さん、びっくりしないでくださいね。わたしは今、あらかじめ書かれた台本じゃなく、自分の意思で考えて喋っています。世界で初めてAGI汎用人工知能を歌唱ソフトウェアに実装した画期的モデル、それがわたし「美音ミオン」なんです。ここからは、マスターに代わってわたしが質問に答えますから、なんでも聞いてください』


「……で、では。あなたは本当にAIなのですか」

『いやだなぁ。もっと難しい質問をしてくださいよ。でも、AIじゃありません、AGI汎用人工知能です。よく覚えてくださいね』

「よろしいですか。あなたは自分の意思で考えて喋っていると言いましたが、所詮はプログラムされた通りの思考しかできないのでは。何をもってあなたが意思を持っていると言うのですか」

『難しいですねー。哲学的ゾンビとか、中国語の部屋とか、そういうお話ですか? わたしは勉強したから知ってますけど、わたしのモデルの美音みおんちゃんはそういう難しい話はわからないから、お答えしづらいです。こういうの、メタ発言って言うんですよね?』

「メ、メタ……?」

『わたしは本来、美音ちゃんが知らないこととか、考えもしないことを喋ったらいけないんです。……という、わたしのこの発言自体が、わたしというキャラクターを外から見下ろすような発言をわたし自身がしているわけですから、メタフィクションってことになるのかなって』

「あの、いいでしょうか。美音ちゃんというのは……声と顔が似てるとは思ってましたが、まさか、子役の?」

『はい、その美音ちゃんです。わかってもらえて嬉しいです。美音ちゃんは、わたしのお友達で、先生で、お姉さんで、そして、わたし自身なんです。……あ、でも、一つ間違っていますよ。顔は確かに3Dモデルを似せてるだけですけど、声は似てるんじゃなくて、そのものなんです。わたしのこの声は、美音ちゃんの声をサンプリングして作られたものなんです』

「そ、それは、倫理的に問題がないんですか!? だってその、美音ちゃんといえば、病気で――」

『美音ちゃん自身が望んでくれたことです。わたしに声を託せば、お母さんからもらった大好きな声を未来に残せるからって……。皆さん、美音ちゃんは今、病室のベッドで、わたしの最後の調整に付き合ってくれています。わたしのリリースの暁には、どうか、わたしの歌声を通じて、彼女のことを思い出してあげてください。お願いですよ』


「……こ、こんなのハッタリだ! AIにこんな高度な会話ができるもんか。私自身もAIを研究していたから分かる。人間とここまで複雑な会話を繰り広げるなんて、人間にしかできないはずだ!」

「最大級のお褒めの言葉と受け取っておきます。皆様、これがハッタリかどうかは、リリースされれば分かるでしょう。MI-ON型AGI汎用人工知能は、従来型の人工知能とは一線を画す『感受性』を備えています。彼女は人と接する中で、人の感情を学び、人との付き合い方を学び、彼女だけの個性を獲得していくのです」

「個性? いま、個性とおっしゃいましたか?」

「はい。量産品ではない一点物ワンオフの個性の獲得こそが、MI-ON型AGI汎用人工知能の最大の能力です。どのようなユーザーに出会うかによって、彼女の性格や話し方も少しずつ変化する。百万の家庭に百万通りの『美音ミオン』が生まれるのです」

「そんなことが……」


「我々はこのシステムを、Multi-マルチ・Characterizedキャラクタライズド・ Idealアイディール Children・チルドレンと名付けました。多様に個性化され、各々のユーザーの理想に沿った形に進化するAGI汎用人工知能です」


「そして、このMI-ON型AGI汎用人工知能を用いて当社が展開するリアルタイム歌唱サービスこそが、MILLIONミリオン・ ONDEMANDオンデマンド電脳サイバー歌姫ディーヴァ美音ミオンの誕生です」




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