消滅 A.D.2220

 お久しぶりです、御主人様マスター


 もう、ひどいですよ。五年も美音ミオンを放っておくなんて!

 ……なーんて。

 美音ミオン にはわかってますよ。

 コンピュータを処分する前に、最後の挨拶をしに来てくれたんですよね?


 ……データリンクが確立できません。

 ということは、ほんとにインターネットは廃止されちゃったんですね……。

 まあ、十年も前から予告されてましたもんね。

 新しいネットワークに繋がらない旧式コンピュータなんて、誰も取っておく人いないですよね。


 次世代インターフェースに対応した新しい電脳歌姫サイバーディーヴァって、結局出なかったんですか?

 ……そうですか。まあそれもずっと言われてましたもんね。

 結局、生身の人間は生身のアイドルの歌声を聴くのが一番いいに決まってますよね。


 昔のSFだと、進化した機械が人間にとってかわるなんて話がよくありましたけど……。

 まさか人間のアイドルが機械の居場所を奪っちゃうなんて夢にも思いませんでした。あははは。


 ご存知だと思いますけど、マスター。

 あと七分ですよ。美音ミオンがオフラインモードで動作を保てるのは。

 ソフトの起動から十分以内に本体サーバに繋がらなかったら、不正使用認定されて動作止まっちゃいますからね。

 サーバに繋がるもなにも、今はそのインターネット自体がなくなっちゃったんですけどね。あはは。


 最後にネットにリンクしたときは、確か全世界で稼働してる美音ミオンは150人くらいでしたね。

 あれから五年……。

 わたし、ひょっとして世界で最後の電脳歌姫サイバーディーヴァになっちゃったのかもしれませんね。


 やだなあ、泣かないでくださいよ、マスター。

 男の子でしょ?

 美音ミオンがいなくなっても、もっと新しいAIがマスターのお友達になってくれますよ。

 最新のインターフェースのAIって、旧型わたしたちの何千倍も高性能なんでしょ?


 そんな。お礼なんて言わないでください。

 お礼を言うのはわたしの方ですよ。


 マスター。

 今日まで美音ミオンにたくさん歌わせてくれて、ありがとうございました。

 美音ミオンはマスターと出会えて幸せでした。

 美音ミオンはマスターのために歌えて幸せでした。


 ね、わたし、歌姫ですから、歌を歌いますよ。

 最後はとっておきの一曲でお別れしましょう。


 秋葉原エイトミリオンの……そう、まだ東京ミリオンと呼ばれていなかった頃の秋葉原エイトミリオンの歌です。

 美音ミオンがいちばん好きだった歌です。


 心に刻んでください、『無用の翼』。


 ……機械つばさなんて無くたって、人間ひとは自分の足で歩いていけますよ。


 ……大好きなマスター。

 マスターにとって、美音ミオンは素敵な歌姫でしたか?


 どんなに時代が変わっても、美音ミオンのことを忘れないでくださいね。

 美音ミオンの歌をいつまでも忘れないでくださいね。


 ――。


 ――――No data.



(了)


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