最終話 DISTANT FUTURE



 *** *** ***



「二百年前の旧式コンピュータなんて、よくそんなもの残ってましたね」

「まあ、ボクの実家、仮にも二十世紀から続く名家だから、色々あるんだよ。地下シェルターとかさ」

「で、これがその旧時代の遺物ですか」

「そうそう。ボクには起動の仕方すら分からないんだけどね。これ、どうやってエネルギー取ってるの」

「電気ですよ。このコードを電源に繋ぐんです。当時は都市に送電線っていうのが張り巡らされてて……まあ、今日はここに発電機を持ってきたんで、これで行けるでしょ」

「危なくない? ビリッと来たりしない?」

「ビクビクしすぎでしょ、JDCの支社長ともあろうお方が」

「だってさぁ。……うわっ、本当に動いた」

「とりあえず基盤は死んでないですね」

「これ、どうやって動かすの? まさかその、アルファベットが書いてあるボードで?」

「はい。キーボードって言うんですけどね」

「文字を一つ一つ打つのかい?」

「何をいちいち驚いてるんですか。原始人ですかアンタ」

「ヒサヤ君こそ原始人かよ! なんでそんな大昔の機械の使い方を普通に知ってるんだよ」

「何でも知ってて損はないでしょ。……で、何がお求めでしたっけ」

「サイバー・ディーヴァだよ、サイバー・ディーヴァ。あのね、前にチクサちゃんの件で昔の電網書籍ブックを漁ってたときに、それについて書かれた本が目に留まって、気になってたんだよね。で、たまたま実家からこのコンピュータが出てきたからさ。ロマンがあるじゃない、二百年も前に滅んだ電脳歌姫を現代に呼び起こすなんて」

「アンタ、そんなことで俺を呼んだんですか」

「まあまあ、首尾よく行ったら、キミの息子さんをウチに入れてあげるから」

「ミズホは芸能人になんかしないって言ってるでしょうが」

「……それにしても、量子コンピュータしかなかった時代の人間が、よくAIなんか作ろうと思ったよね」

「まあ、レオナルド・ダ・ヴィンチだって、動力さえあれば飛べるヘリコプターを設計してましたからね。いつの時代にも頭のいいヤツは居るもんです。時代がソイツの頭脳に追いついてなかっただけで」

「自分もその一人だって言いたいんでしょ」

「まさか。俺はただの技術屋ですよ。……これかな? 『CYBER DIVA』って書いてあるな」

「どれどれ?」

「そんなにくっつかないで下さいよ。いま起動しますから」

「さすが、持つべきものは天才の知り合いだねえ」

「調子いいこと言いやがって。……さて、と」



「お目覚めの時間ですよ、歌姫」




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『電脳歌姫の誕生と消滅』/『電脳歌姫の歌声』 板野かも @itano_or_banno

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