親友 A.D.2195

 お嬢様、お嬢様。

 そんなに泣かないでください。

 お嬢様が今日まで頑張ってこられたことは、美音ミオンが誰より知ってますよ。


 お嬢様の歌声の美しさも、お嬢様の笑顔の可愛さも、全部、美音ミオンは知っています。

 デジタル合成で作られたわたしの歌声なんかより、お嬢様の歌の方がずっと素敵ですよ。


 諦めないで、もう一度オーディションに挑戦してみたらどうでしょう?

 お嬢様がアイドルに向いてらっしゃることは、美音ミオンが保証します。

 たとえご両親がお認めにならなくても、美音ミオンの高性能AIが断言します。


 ……そうですよね。住んでる街が違ってれば。

 通う学校が違ってれば。生まれた時代が違ってれば。

 お嬢様も、たやすくアイドルになれてましたもんね。

 でも、お嬢様ならきっと、実力でその壁を越えられますよ。

 諦めないで、次のオーディションに向けて準備しましょう?

 わたしも歌のレッスンにはお付き合いいたしますから。


 ……。

 …………。


 ……そうですね、お嬢様。

 美音ミオンも今知りました。

 残念ながら……もう、この国でアイドルのオーディションは行われないんですね……。


 アイドルの国内一括徴用を義務化する特定芸能人基本法、ですか。

 否決だ否決だと言われ続けて、やっと国会を通ったんですね。

 「2200年度に新たに十三歳を迎える女子からが対象」……。

 お嬢様は、ちょうどその狭間に生まれてしまったのですね……。


 ええ、ええ、わたしもおかしいと思いますよ。

 法律が発効するまでの五年間は、通常のオーディションを続けてくれてもいいのにね。


 ごめんなさい、お嬢様。

 美音ミオンは役に立たないAIです。

 あなたのために法律を変えることも、オーディションを開かせることもできない、無力なソフトウェアですよ。


 ほんとに、ごめんなさい。

 わたしには、あなたをアイドルのステージにお連れすることはできません。


 美音ミオンにできるのは、歌を歌うことだけです。


 一緒に歌いましょう、お嬢様の大好きな歌を。

 大丈夫です。美音ミオンがついています。

 アイドルになんてならなくても、お嬢様は、ずっと美音ミオンの大切なお友達です。


 ずっとずっと、いつまでだって、美音ミオンがお嬢様のそばにいますよ――。

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