『電脳歌姫の歌声』

第1話 UNFAIR WORLD



 *** *** ***



「お気の毒ですが、現代医学では手の施しようがありません。このまま病状が進行すれば、娘さんの声は、あと二年もすれば……」

「あんた、それでも医者か!」

「こんなの間違いです! ね、先生、間違いだって言ってください! 美音みおんはまだ十三歳なんですよ!?」

「……芸能活動で喉を酷使していなければ、まだ進行を抑えられる見込みもあったのですが」

「ふざけるな! 何が大学病院だ、何が最先端の医学だ! 二十一世紀にもなって、こんな病気一つ治せないのか!」

「本当に……お気の毒ですが……」

「先生、どうか……。子役も歌も、続けられなくたっていいんです。私達は、あの子が生きて笑ってくれさえすれば、それで……!」

「……延命治療には、最善を尽くします」

「もういい、こんな病院にはもう頼まん。行くぞ」

「あぁ……美音……!」



 *** *** ***



「パパ、ママ?」

「病院を移ろう、美音。お前をちゃんと治してくれる先生を探すんだ」

「……」

「どうした、美音?」

「……わたし、もう歌えないの?」

「な……何を言うんだ。大丈夫だ、お前の病気を治せる先生はきっとどこかにいる。諦めずに――」

「ううん……。わかるの。わたしの声……このまま消えていっちゃうんでしょ……?」

「そんなことは――」

「美音……! ごめんなさいね、ママが、ママがあなたを子役になんてしたばっかりに……!」

「ママ、泣かないで……。わたし、ドラマにいっぱい出られて、ほんとに楽しかったから」

「くそっ、なんで美音なんだ! なんで……!」

「パパ……もういいの。そんなに苦しまないで。きっとこれが、わたしの運命だったんだよ」

「そんな馬鹿なことがあるか! なんで、よりによってお前が……!」

「他の誰かなら、パパはよかったの?」

「!」

「パパの知らない、どこかよその子だったら、わたしのかわりに病気になってもよかったの……?」

「……美音、お前」

「ああ、神様……! どうして、どうしてこんな優しい子に……こんな仕打ちを……!」

「……この世界は不公平だって、みんな言ってたよ。学校のみんなも、アクターズスクールのみんなも」

「美音……」

「でも、わたし、これはこれで公平なのかなって思うの。……これまで、他の子にできない楽しいことを、いっぱいさせてもらってきたから……」

「……馬鹿なことを言うんじゃない。お前の命と引き換えにするくらいなら、芸能界になんか入れなくてよかった」

「……パパ、ママ。わたしのお願い、聞いてくれる?」

「お願い?」

「……わたしがいなくなっても、わたしの声、ずっと残してほしいの。パソコンでもCDでも何でもいいから。……わたし、パパとママがくれたこの声は、大好きだから……」

「ええ。約束する……約束するわ。ママも、美音の声は大好きだもの……!」



 *** *** ***


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る