第2話 BEAUTIFUL VOICE
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「貴重な面談の機会を下さり有難うございます。このたびは、お嬢様のこと、何と申し上げてよいか……」
「お悔やみのようなことを言わんでください。娘は生きております」
「これは、失礼致しました」
「それで、何ですか、提案というのは。言っておきますが、娘はもうテレビには出しませんよ」
「ええ、ええ、もちろん。わかっております。……ただ、お嬢様の声をこのまま天に委ねるのは、あまりに忍びなく。……この画面をご覧頂けますか」
「……何です、これは。悪いが、アニメの声優だってお断りですよ。そもそも娘の病状が悪化したのは、芸能の現場で声を出しすぎたせいで――」
「お父様、これはアニメではございません。自らの意思を持つ
「何だってお断りだ。娘にこの人形の声を当てさせようって言うんだろう」
「いいえ。どうか、お気を落ち着けてお聞き下さい。……お嬢様に、新たに何か演技をして頂きたいというわけではございません。私どもは、ただ、お嬢様の声を使わせて頂きたいのです」
「……何を言っているんだか、さっぱり」
「当社は現在、
「そのサイバー何たらに、娘の声を使いたいと?」
「ええ。お嬢様の声は、天が地上に下された至宝です。また、お嬢様が数々のドラマで見せた、瑞々しく感情豊かな演技。他の子役には真似できない抜群の個性。どうか……『百年に一人の子役』と呼ばれた
「……何だか知らんが、私達はもう娘を芸能界に出したくない。残された命くらい、カメラを向けられないところで穏やかに過ごさせてやりたいんだ」
「お嬢様の声を、永遠に未来に残したくはないのですか?」
「……!」
「お嬢様の生きた証を、過去のものにしてしまって良いのですか?」
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「主任があんなに交渉上手だなんて知りませんでしたよ」
「私は必死なだけだよ。親御さんにOKしてもらえなきゃ、このプロジェクト自体が白紙に戻されかねないんだから」
「どうしてそこまで美音ちゃんにこだわるんです? 歌と演技ができる子役なんて、探せばいくらでも――」
「君が子役だったらどうする。電脳歌姫のモデルになんかなりたいか?」
「……まあ、自分だったら、面白そうですし、引き受けると思いますけど」
「君の声と性格をサンプリングした歌姫が、十年後も二十年後も世界各地で歌い続けてたらどうだ。国中、世界中、どこへ行っても自分の声。いま私達が聴いている生身の歌手の歌声が、全部君一人の声に置き換わるんだぞ」
「……ゾッとしました」
「そうだろ。だから普通は、そういう事態を想定して、十年ごととか、二十年ごととか、定期的に契約を見直す取り決めにしておくよな。君自身から声の使用の差し止めを要求できる条項があったら、どうだ、行使するか」
「……まあ、さすがに十年も二十年も自分の声ばかりが世の中に溢れてたら、差し止めたくもなりますよね」
「その十年後や二十年後に、君がもうこの世にいなかったらどうだ」
「……主任、まさか」
「それが彼女を起用する理由だ。……まあ、彼女の声と演技に惚れ込んだというのも、決して嘘ではないんだけどね」
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