第7話 キノおあこあくまおねーさん?

 なんで? なんでなんでなんでなんで??

 え? どういうことーーーーーーーー!!


 神有かみありツキト! 十七歳! ただいま下校中! 今日はまだ、小悪魔おねーさんが出没していません。こんな日もあるのか! もうハロウィンから二日たったしなぁ。もうこのまま出ないでほしいです。


 きのうは本当にヒドイ目にあった。カノのモスグリーンだったり、キレイな色した案外おっきなアレとかを見れてラッキーだったけど、トータル的にはガッツリマイナスだ。だって、きょうのカノは、あきらかに俺をさけていたから。

 目が合うどころか、完全に俺を視界に入れようとしない。ずっとグラウンドを見ている。通路側の席にいる俺を「絶対に見るもんか!」っていう断固とした意思を感じた。


 きょうの俺は、万全のおねーさん対策を考えていた。対策というほど、難しいことではない。


 無視することだ。


 おねーさんは、俺が答えるまではずっと「とりっくおあとりーと?」って質問するけど、結局のところ返事をしなければ何もしない。

 まあ、おねーさんの布地の少ないパンツを見てしまう恐れはあるけれども、おねーさんの姿は俺以外の誰にも見えない。周囲には、俺がアヤシイ行動をしているように見えるだけだ。

 でも、それでも全然いい。女の子を無差別パンチラのつむじ風に巻き込んだり、俺に着替えをのぞかれたりしないで済む。


 だからきょうは、どんなにおねーさんのセクシーショットをみせつけられても、脳内で「とりっくおあとりーと?」って言われても、終始無視することを決めた。どれだけ脳内で質問されようとも、耐え忍ぼうって心に決めていた。

 でも、おねーさんは、結局一回もでてこなかった。


 こういう日もあるのか! いや、よくよく考えたら、きのうがおかしすぎるだけだ。きのうが特別だったって考えるべきだ。

 俺は、家に帰ると制服から私服にきがえた。そして、公園をつっきってカノの家に行った。


 いくら気まずいからって、行かないわけにはいかない。俺は母さんに念を押されているのだ。カノを手伝う必要がある。キノちゃんの子守りをする必要がある。


 ピロリン♪ ピロリン♪ ピロリン♪


 ほどなく、インターホン越しに声が聞こえる。


「はい!」

「俺だけど」

「いまいく!」


 そう言って、インターホンはきれた。インターホンにでたのは妹のキノちゃんだった。


 ガチャリ


「よくきたな」

「カノは?」

「ばんごはんをつくっている」

「そっか、きょうは何してあそぶ?」

「いんぐりっしゅ!」

「あ、きょうは火曜日か。英会話の日だ」


 俺は、くつを脱いでカノの家にあがる。

 キノちゃんの幼稚園では、毎週火曜日に英会話の時間があるらしい。

 キノちゃんは英会話の先生が大好きで、めちゃくちゃ真剣に聞いているらしい。

 そのコーフンがさめやまないから、俺に英会話を教えてくれる。


 先週の火曜日は、えんえん「とりっくおあとりーと」って言い続けていた。

 そしてハロウィンだった日曜日は、悪魔のコスプレをしたキノちゃんに、俺は大量のカン◯リーマームをプレゼントしていた。


「はーいえぶりわん」

「はうわーゆー」

「ふぁいんせんきゅーあんどゆー」


 俺とキノちゃんは、英会話をつづける。

 英会話を教えてくれる先生は、ネイティブ。つまり外国の人らしい。だからキノちゃんの発音は、俺なんかよりはるかにいい。


「あいるくりーんあっぷ」

「おーけー」

「ぷりーずへるぷみーくりーんいっと」

「らじゃー」

「おーぷんざーういんどう」

「らじゃー」

「ぜいゆーずばきゅーむくりーなー」


 そう言って、キノちゃんは掃除機をかけるまねっこをする。俺は「ゆーあぐっとあっといっと」と拍手をしてほめたたえる。

 これを、無限につづける。英会話というより、ほとんどチェスチャーゲームだ。

 キノちゃんの次は俺が掃除のゼスチャーをして、それをキノちゃんが拍手をしてほめてくれる。


 ぶっちゃけ、結構疲れる。


 きのうは戦いごっこで、おとといはダンスの練習。三歳の女の子のあそびは意外と体力勝負だ。そしてそれはキノちゃんもおんなじで、さっきまであんなにはしゃいでいたのに、まるで電池が切れたみたいに「コテン」とソファーで昼寝をしはじめた。


 やれやれ。俺は、眠っているキノちゃんに毛布をかけようと、寝室に行った。そして毛布を手にしてリビングにもどってみると、キノちゃんはどこにもいなかった。そして俺の目の前には、


「とりっくおあとりーと?」


 セクシーな小悪魔おねーさんが立っていた。その場所は、さっきまでキノちゃんが眠っていたソファーの上だった。

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