第3話 とりっくあういんどうぱーとつぅ⤴︎
なんだ? なんだなんだなんだなんだ??
なんなんだこれはーーーーーーーー!!
なんで? 本当になんで? なんだったんだあのモスグリーンのつむじ風は? そして俺はまた、カノに嫌われてしまった。モスグリーンのパンツをバッチリもくげきして、ガッツリ嫌われてしまった。ちくしょう!
でも、おねーさんは消えた。よかった。本当によかった。
そして脳内にみんなの声が響かない。よかった。本当によかった。
美男にカウントされるなんて、頭がヘンになる。イケメンの立ち振る舞いなんて、教わっていないモノ。そんなんは大手芸能事務所の社長に「YOU」って呼ばれるようなスーパースターだけだもの。なんの変哲もない俺が美男なんて恐れ多い!
でもまあ、よかった。本当によかった。わけのわからないおねーさんが消えて本当によかった。あとは俺がキッチリケジメをつければなんとかなる。
俺は学園の校門をくぐると、ミナミ先輩の胸が密着した腕をぬきとって、ミナミ先輩の目をまっすぐ見て言った。
「あの……ミナミ先輩!」
「なあに?
ミナミ先輩は、僕をうっとりした瞳で見ている。本当になんで?
「放課後、屋上にきてもらっていいですか?」
「ええ? わかったわ。何かしら? ワクワクしちゃう。じゃ、屋上でまたあいましょう」
そういうと、ミナミ先輩はウインクして校舎の中に入っていった。
うれしいけど、こんなのはダメだ。あいまいはダメだ。このままじゃ、カノに本当に嫌われてしまう。手遅れになってしまう。
……ミナミ先輩には悪いけど、俺にはスキな人がいるって、屋上でキッパリ言おう。
・
・
・
授業が始まっても、俺は気が気ではなかった。
午前中の授業なんか、正直よく覚えていない。
同じクラスのカノとは、なんどか目があったけど、目があった瞬間に、秒で視線をはずされた。ツライ。
でもツライのは、放課後までだ。授業が終わったら、俺はミナミ先輩をいさぎよくフルんだ。そして堂々とカノと付き合うんだ! ……ちょっともったいないけど。
今は、午後の体育の授業だ。俺たち男子は、今日は、体育館でバスケだ。今はシュートの練習をしている。
俺はダムダムとバスケットボールをドリブルしてから、シュートの体制に入る。まずヒザをやわらかくして……体全体を読んで、ボールはリングにおいてくる。『華麗なる庶民シュート』。またの名をレイアップシュートだ。
俺は、ボールを置くリングを見上げた。
「とりっくおあとりーと?」
「ぶべらっ!」
リングの上に、おねーさんがたっていた。
俺は、おねーさんの布面積の少ないパンツを、とんでもないアングルで目撃してしまい、その硬直のタイミングで、リングに弾き飛ばされたボールを顔面にしたたかぶつけて、今まで発したこともないようなカッコ悪い叫び声をあげた。
「とりっくおあとりーと?」
「ぶべら!」
なんなんだ? 本当になんなんだ? いい加減にしてくれ!!
おねーさんは、俺がリングの見上げた瞬間に絶妙なタイミングで出現して、布面積の少ないパンツを見せつけてくる。
こんなんじゃ、試合どころじゃない。シュートもリバウンドも命がけだ。
俺は、計五回、顔面にバスケットボールをぶべらって、どうにかこうにか体育の授業を終えた。そして今はバスケットボールを詰め込んだカゴを用具室に運んでいる。俺ひとりで運んでいる。罰ゲームではない。俺みずから買って出た。
「とりっくおあとりーと?」
おねーさんは、さっきからずっと俺の前でふわふわと浮かんでいる。
「とりっくおあとりーと?」
つかれた……本当につかれた。でも俺は、ぶべらった頭で必死に考えた。その法則を考えた。おねーさんの〝とりっくおあとりーと〟の法則を考えた。
「とりっくおあとりーと?」
多分……なんだけど、〝とりっく〟が全体効果で、〝とりーと〟が単体効果だ。そしてどちらが被害が少ないかと言うと……。
「とりっくおあとりーと?」
「トリックでお願いします!」
おれは、用具室に入ると、すばやく扉をしめながら叫んだ!
「いえす! とりっく!! とりっくあういんどう!!」
おねーさんは、よくわかんないことをとなえて、指をパチンとならした。すると、用具室が一面モスグリーン色になった。よし! 計画通り!!
どんなもんだ! さあつむじ風よ来い! ここなら誰も巻き込まない!
ガラッ!
唐突に用具室の窓がひらいた。そして、
「きゃーーーーーーー!」
「きゃーーーーーーー!」
「きゃーーーーーーー!」
「きゃーーーーーーー!」
「きゃーーーーーーー!」
「きゃーーーーーーー!」
「きゃーーーーーーー!」
「きゃーーーーーーー!」
ひらいた窓は、女子更衣室につながっていた。なんで?
そして、俺ははっきりと見た!
白、ピンク、ストライプ、水玉、チェック、なんかむらさきのレースの大人っぽいのやら、色々スゴイものを見た。この場にミナミ先輩がいたら危なかった!
そして、俺は女子更衣室の一番奥にいたカノのモスグリーン色のブラジャーに釘付けになった。パンツとおそろいのブラジャーにこころをうばわれた。
そして、カノは、ブラジャーを見ている俺のことを、めっちゃケーベツした目で見ていた。
冷たい、氷のような、悲しいまなざしが、俺の五メートル前にあった。
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