第3話 とりっくあういんどうぱーとつぅ⤴︎

 なんだ? なんだなんだなんだなんだ??

 なんなんだこれはーーーーーーーー!!


 神有かみありツキト! 十七歳! モスグリーンのつむじ風がおきて、登校中の女子全員のスカートがめくるめく状態になりました!


 なんで? 本当になんで? なんだったんだあのモスグリーンのつむじ風は? そして俺はまた、カノに嫌われてしまった。モスグリーンのパンツをバッチリもくげきして、ガッツリ嫌われてしまった。ちくしょう!


 でも、おねーさんは消えた。よかった。本当によかった。

 そして脳内にみんなの声が響かない。よかった。本当によかった。

 美男にカウントされるなんて、頭がヘンになる。イケメンの立ち振る舞いなんて、教わっていないモノ。そんなんは大手芸能事務所の社長に「YOU」って呼ばれるようなスーパースターだけだもの。なんの変哲もない俺が美男なんて恐れ多い!


 でもまあ、よかった。本当によかった。わけのわからないおねーさんが消えて本当によかった。あとは俺がキッチリケジメをつければなんとかなる。


 俺は学園の校門をくぐると、ミナミ先輩の胸が密着した腕をぬきとって、ミナミ先輩の目をまっすぐ見て言った。


「あの……ミナミ先輩!」

「なあに? 神有かみありくん」


 ミナミ先輩は、僕をうっとりした瞳で見ている。本当になんで?


「放課後、屋上にきてもらっていいですか?」

「ええ? わかったわ。何かしら? ワクワクしちゃう。じゃ、屋上でまたあいましょう」


 そういうと、ミナミ先輩はウインクして校舎の中に入っていった。

 うれしいけど、こんなのはダメだ。あいまいはダメだ。このままじゃ、カノに本当に嫌われてしまう。手遅れになってしまう。

 ……ミナミ先輩には悪いけど、俺にはスキな人がいるって、屋上でキッパリ言おう。


 ・

 ・

 ・


 授業が始まっても、俺は気が気ではなかった。

 午前中の授業なんか、正直よく覚えていない。

 同じクラスのカノとは、なんどか目があったけど、目があった瞬間に、秒で視線をはずされた。ツライ。


 でもツライのは、放課後までだ。授業が終わったら、俺はミナミ先輩をいさぎよくフルんだ。そして堂々とカノと付き合うんだ! ……ちょっともったいないけど。


 今は、午後の体育の授業だ。俺たち男子は、今日は、体育館でバスケだ。今はシュートの練習をしている。

 俺はダムダムとバスケットボールをドリブルしてから、シュートの体制に入る。まずヒザをやわらかくして……体全体を読んで、ボールはリングにおいてくる。『華麗なる庶民シュート』。またの名をレイアップシュートだ。


 俺は、ボールを置くリングを見上げた。


「とりっくおあとりーと?」

「ぶべらっ!」


 リングの上に、おねーさんがたっていた。


 俺は、おねーさんの布面積の少ないパンツを、とんでもないアングルで目撃してしまい、その硬直のタイミングで、リングに弾き飛ばされたボールを顔面にしたたかぶつけて、今まで発したこともないようなカッコ悪い叫び声をあげた。


「とりっくおあとりーと?」

「ぶべら!」


 なんなんだ? 本当になんなんだ? いい加減にしてくれ!!

 おねーさんは、俺がリングの見上げた瞬間に絶妙なタイミングで出現して、布面積の少ないパンツを見せつけてくる。


 こんなんじゃ、試合どころじゃない。シュートもリバウンドも命がけだ。

 俺は、計五回、顔面にバスケットボールをぶべらって、どうにかこうにか体育の授業を終えた。そして今はバスケットボールを詰め込んだカゴを用具室に運んでいる。俺ひとりで運んでいる。罰ゲームではない。俺みずから買って出た。


「とりっくおあとりーと?」


 おねーさんは、さっきからずっと俺の前でふわふわと浮かんでいる。


「とりっくおあとりーと?」


 つかれた……本当につかれた。でも俺は、ぶべらった頭で必死に考えた。その法則を考えた。おねーさんの〝とりっくおあとりーと〟の法則を考えた。


「とりっくおあとりーと?」


 多分……なんだけど、〝とりっく〟が全体効果で、〝とりーと〟が単体効果だ。そしてどちらが被害が少ないかと言うと……。


「とりっくおあとりーと?」

「トリックでお願いします!」


 おれは、用具室に入ると、すばやく扉をしめながら叫んだ!


「いえす! とりっく!! とりっくあういんどう!!」


 おねーさんは、よくわかんないことをとなえて、指をパチンとならした。すると、用具室が一面モスグリーン色になった。よし! 計画通り!!


 どんなもんだ! さあつむじ風よ来い! ここなら誰も巻き込まない!


 ガラッ!


 唐突に用具室の窓がひらいた。そして、


「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」


 ひらいた窓は、女子更衣室につながっていた。なんで?

 そして、俺ははっきりと見た!


 白、ピンク、ストライプ、水玉、チェック、なんかむらさきのレースの大人っぽいのやら、色々スゴイものを見た。この場にミナミ先輩がいたら危なかった!


 そして、俺は女子更衣室の一番奥にいたカノのモスグリーン色のブラジャーに釘付けになった。パンツとおそろいのブラジャーにこころをうばわれた。


 そして、カノは、ブラジャーを見ている俺のことを、めっちゃケーベツした目で見ていた。

 冷たい、氷のような、悲しいまなざしが、俺の五メートル前にあった。

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